■親子の会話から
思春期相談で話を聞いていると、時々次のような親子のコミュニケーションが見られます。
母親が不登校相談でスクールカウンセラーから「ゆっくり休むことも大事です」と言われています。母親は私にも「休みたいときは休んでもいいし、行けないときは無理して登校しなくてもいいと言っています」と述べます。私も焦らずに対応していきましょうなどと話します。
なかなか進展しない時に詳しく会話を聴いてみます。母親は子どもに「無理しなくていいよ。学校に行かなくていいよ」と言っていますが、登校せずにゲーム三昧になりお笑い番組に夢中でいる様子にモヤモヤしているようです。
私が「朝に声をかけますか」と聞くと、登校時間に「今日はどうするの?」「この頃○○君と遊んでないよね?」などと尋ねているようです。私は「どんな気持ちで尋ねていますか?」。すると「元気なのに行かないし、返事もはっきりしないからイライラして聞いてしまいます」と言うのです。どうやらきつく言うこともあるようです。
休むことを了承しているのですが、雰囲気や態度は「学校へ行ってほしい」と登校を促しているのです。母親自身は登校を促していると気づいていない場合があります。
口では登校しなくて言いと言いながら、母親の態度は登校して欲しいと望んでいるのです。このような状態はダブルバインド(二重拘束)と言われます。これは2つの相異なるメッセージを子どもが受け取り、その矛盾のなかで動かなければならない状態のことです。
コミュニケーションは、言葉によるメッセージと同時に雰囲気やしぐさなど言葉以外のものも伝わります。言葉以外のコミュニケーションが2/3以上という説もあります。言葉より態度など子どもへのまなざしで感情は理解され、言葉より態様のほうが心に響くものです。子どもは口で言われたことと、様子や態度が違ったりすると混乱してしまいます。
思春期で様々な問題を出す親子のコミュニケーションにこのようなダブルバインド状態が時々あります。子どもは子どもなりの判断をしたいと考えていますが、親は親なりの方針を通したいと考えていて、互いに譲らない状態が続く状態です。
■シングルバインドに
「友達と遊んできなさい」と言うので「家で友達と遊んだけど、友達が帰ったらお母さんが不機嫌になる」場合があります。親の本心は家で遊んで欲しくないのでしょう。また両親の方針が全く異なる場合もこの例で、子どもは途方に暮れてしまいます。
親は「好きなようにやってみたら」と励ます一方で、「これがいいんじゃない」「~はダメ」とさりげなく言って親の望むように誘導したりします。
背景には「私が望んでいるようにしなければダメ」という暗黙のメッセージが込められているのです。「あなたのために言っている」と思い込んでいる場合には子どもはいい方向に変化しにくいものです。ダブルバインドは親の言うとおりにやってもダメ、やらなくてもダメという状態です。子どもはこのような時に、動けなくなります。
対応は、子どもが望むことを尊重するというシングルバインドに変えていくことです。不登校の場合には親が学校にこだわらなくなると、子どもが生き生きと生活できて変化していくことは珍しくありません。
親が子どもの行動に困っている時は、子どもは親とのつきあい方や対応に困っていることが少なくありません。子どもが立ち止まっているように見える時、母親自身がどのようなメッセージをしているか振り返ってみることをおすすめします。子どもを信頼して見守れると、子どもは親との関係で悩まないので、自分のこと、すること、したいことに集中できていくのです。
日々の何気ない日常会話ですが、子どもの気持ちを尊重する言葉かけでありたいものです。見つめるべきは我が心、子どもにどのようなまなざしで接するか自らを時々問い直してみたいものです。
(Mind子ども相談 高橋健雄 2014)