子育てで一番大切なこと


■子育てで一番大切なこと

Q.-佐々木先生は、児童精神科医として、今までにたくさんの子ども達やお母さん達に会ってこられたわけですがそんな中で、子育てをするにあたって何がいちばん大切だとお考えですか。

佐々木正美
子育てで何がいちばん大切なのかと言いますと、私は何よりも子どもの心に基本的信頼感を育てることがいちばん大切だと思います。

「基本的信頼感」という言葉はアメリカの精神分析家のエリクソンが言った言葉です。

私がカナダに留学していた時の恩師がカール・クラインという教授で、彼がエリクソンと非常に親しかったのです。それで、彼とのおしゃべりやディスカッションを通して、エリクソンが本当に考えていることや感じていることを教えてもらったのですね。エリクソンの言う「基本的信頼感」というのは、「人を信じる力と自分を信じるカ」であると言っていいと思います。

Q.-「基本的信頼感」というと、ちょっとむずかしそうな言葉ですが、これはどういう風に育つものなのでしょうか

佐々木正美
どのようにすると基本的信頼感が子どもの心に育つかはとても大切なことですが、自分を信じてくれる人に巡り会うことなのですね。自分を信じてくれた人を、子どもは信じるようになります。子どものことを心配してあれこれ注意する親は、子どもを信じられないから心配しているというところがあるわけです。

親はそう思っていなくても、子どもにはそう伝わります。「こんなことじゃダメだよ、ああしなきゃダメだよ」と言っているのは、信じられないからです。子どものためを思って心配しているという部分は子どもには伝わらなくて、要するに子どもを信じていないということだけが伝わります。

子どもは自分を信じてもらうことによって、信じてくれた人を信じます。そして自分が信じられたことによって、自分を信じることができるのです。こういう関係がまず基本なのです。こうしたことをクライン教授に私は教えられたのです。自分を信じてくれるというのは、別の表現をすると、自分を愛してくれると言い直してもいいでしょう。

ところが、私達親は子どもを愛していると思いながら、実は親自身が自己愛になっていることがあります。ということは、自分の望むような子どもにしようと一生懸命になり、それを愛していると思い込んでいるのですね。自分の考えは間違っていないんだ、こうするといい子になるんだというふうに思っていることが実は自分の望んでいる子どもになってほしいという気持ちからきていることがあります。そうすると、子どもを愛しているように見えて、実は親の自己愛なんです。

子どもはしばしば親の自己愛の対象になっていることがあります。このような場合には、子どもは本当に親に愛されているとは感じられません。全然愛されていないとは思っていませんが、愛され方に子どもとしては不足があるわけですね。親の望むような子どもを演じることで、親が安心してくれるということは、親の望む子どもでなければ愛せませんよ、というメッセージになっているのです。

ひよこ

●親の過剰な期待を子どもは「拒否」と受け取る

このことはカナダの他の教授にも教えられました。自閉症の研究で有名なレオ・カナーという教授は、子どもに対する過剰期待は、親がどんなに子どもの将来を案じての愛情であるつもりでも、子どもに伝わるメッセージの本質は「拒否」だと言うのです。現状のあなたに満足しないということが過剰期待なのだから、その満足しないという部分が伝わりやすいんですよ、と。これは本当だと思いますね。

Q.-親は子どもに多少は期待を持つものですが、それが過剰期待になるとよくないのですね。

佐々木正美
これは今日、親も教師も考え違いをしている点です。子どもに対する信頼や愛情、受容という気持ちが伝わらないで、期待=拒否 という感情が伝わっていることがしばしばあります。別の表現をすれば、親は過剰に期待をすることで、ある種の不信感を一生懸命子どもに伝えているという間違いを起こしています。そうすると、子どもは信じられていない、愛されていない、受け入れられていない、拒否されているというメッセージを親から受け取ってしまうことがおおいにあるのです。これではその親や大人に対して子どもが信頼を寄せられないと同時に、自分も信じられなくなります。信じられていない自分が信じられないのですね。

基本的信頼感というのは、信じられることによって、自分を信じ、人を信じるということてすから、親は子どもを信じてあげるということが何よりも大切なのです。

私が書家で詩人の相田みつをさんの言葉で一番好きなのは「そのままでいいがな」という言葉です。そのままでいいということは、それはこうしなくちゃね、こうできるといいね、と子どもに言いながら、そうしなくても、できなくてもいいよということを言ってあげることです。こうなったらいいのであって、こうならなくちゃいけませんというのは、私は拒否につながると思っています。

●「そのまんまでいいよ」という愛情

Q.-子どもにいい成績をとるようにやかましく言うというようなのは、子どものためというよりは親の自己満足のためなんでしょうね。

佐々木正美
子育てとは条件をつけない愛情がいいのです。いい学校へ行ってほしい、いい成績を取ってほしい、しつけをしっかり身につけてほしいなどの要求が表に出過ぎることは、健康な自尊心を育てません。そのまんまでいいよという「待つ」愛情が大切ですね。

偏差値が、あるランクの学校に入学したということは、それ以上の偏差値ランクの学校の生徒の前では劣等感を感じることになります。逆にそれより低い偏差値ランクの学校の生徒には優越感を持つことになります。優越感、劣等感は人間誰にもあるとはいえ、やはり醜い感情です。そういうものを一生懸命親は教えているということに気づいてほしいのです。

一定の努力は必要ですが、そのままで入れるところがいいのです。市民マラソンと同じです。何等だろうとかまわない、入賞が目的ではない、健康のためにマラソンに参加するというような心がけですね。  (以下省略)

佐々木正美著 「お母さんがすき、自分がすき」と言える子に―信頼されて子どもは育つ」より

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