子育ての心理学1

佐々木正美

エリクソン(Erik H.Erikson 1902~1994)という人の発達論には非常にすばらしいものがあります。なぜすばらしいかといいますと、子どもたちを実証的に見つめて作り上げた理論だからです

 アメリカには様々な民族の家族、子どもたちが生活しています。そうしますと民族によってそれぞれの宗教や文化やしきたり習慣を持って生活しているわけです。そうするといろんな育児があるというわけですね。

 ところがどんな習慣や文化を持っていても、子どもたちが健康で健全に育っていくためにはこういう点だけは、みんな共通している。健康に育った子どもたちは、こういう点は絶対抜かされていない。あるいは、子どもたちがちゃんと成長発達するためには、こういう用件を赤ちゃんの時から満たされていかなければならないというものがあります。

 こういうものを調べていくために非常に調べやすいわけです。私たちの場合は、同じ文化で同じ育児をしていますから、うまく育った子どもたちを見ても何がよくて何がよくなかったか分からないわけです。ところがいろんなやり方で育った子どもたちを見ていると、何が共通していていたのかという点をふるいに落としていくことによって、これだけが、共通していると。共通しているということは、基本的に大事な用件だ、必須要件だということがわかるわけですね。

 エリクソンはそれをクライシスという呼び方をしました。心理社会的な危機ですね。危機的な状況。このことをきちんと発達の手順に従って、教育上配慮していかないと、乗り越えていかないと、大変な状況が訪れるという意味合いで、危機、クライシスとよんだわけです。

 日本人には、育児をしていく上での、必要課題といった方がわかり良いでしょう。英語ではクライシスとよぶわけですね。私たちにとっては、発達課題、あるいは育児や教育課題、しつけの課題と思ってよいと思います。それぞれの家庭のいろいろなやり方があっても、このことを抜かしてはいけない、そういうものがあるんだということです。