しつけを考える2

 佐々木正美&ゆめこびと(清水政江 木村依子 有田留美子)

様々なしつけ観の違いの中で

【Q1】まず、日頃強く感じている問題ですが、今は人によってしつけ観が全く違いますよね。近所の人たちの中で、幼稚園のお母さん同士、姑との関係、そして夫との関係でも。自分ではこういうしつけをしたいと思っても、他の人の考え方とギャップがあって悩んでしまう場面が多いのです。周囲の人との折り合いのつけ方をどうしたらよいでしょうか。
 

佐々木正美

/私は、しつけ観の差がある中で子どもを育てるのが望ましいと思っているんです。いろいろな人の考え方、価値観があること、違いがあること。その中で子どもが育つのはとても大切なことですね。いろいろな考え方がある、でもうちのお母さんはこうなんだと子どもがわかるには、同質の価値観の中だけではだめなのです。違う価値観の中で初めて、よそはよそ、うちはうちというのを伝えられるのです。
 

【Q2】最近は公園などでも、同じ考え方のお母さん同士で固まり、違う考え方の人は仲間に入れない傾向があるという話しも聞きます。ちょっと違った考えの人を受けいれられない親が増えているのでしょうか。

佐々木正美

/同じ考えの親同士だけで固まろうとする大人の姿勢が、知らず知らずに子どもに伝わっていませんか。「いじめ」をうみだす土壌もそういうものですね。同質の仲間としか交わらない、異質なものを排除するのがいじめです。それを親が自らの態度で教えてしまっているのでは。大切なのは、たくさんの違いを与えてあげて、その中から子どもが何を選択できるか、ではないでしょうか。一つの価値観だけではないから、幅の広い人格が育つのです。 



同居している祖母としつけ観が違う場合

【Q3】例えば、同居しているおじいちゃん、おばあちゃんとのしつけの違いに悩んでいるお母さんが多いのですが…。子どもが少食なのに、食事の前に甘いお菓子を与えてしまう祖父母がいて、ついイライラを子どもにぶつけてしまうという人の場合、どう考えたらいいでしよう。

佐々木正美 

/おじいちゃんたちは、甘いものをあげることも愛情の表現の一つだと思っているのでしょうね。お母さんはせっかく栄養を考えて、食事を用意しているのに…と思われることでしょう。でも、それは感情の問題だけであって、子どもを怒ったり、八つ当たりすることはよくありません。子どもは悪いことは悪いと知っているんです。ごはんを食べる前にお菓子を食べるとごはんがおいしくないよ、とお母さんの考え方を子どもに繰り返し伝えることですね。祖父母という存在は父母とは違うものの考え方をしてくれるから、子どもにとっては救いの場でもあるのです。
 

【Q4】確かに、同居している人は母親が子どもを叱っても、子どもが逃げていく場所がありますね。核家族だとそうはいかない。

佐々木正美

 /子どもを救ってあげるというのは、とても大切なことですね。核家族の最大の問題点は、子どもが叱られた後に救われなくて、何時間もその状態をひきずってしまうこと。気持ちを切り替えてくれる人がいる方がいいのです。叱るのはその瞬間だけ。懲りるほど叱っちゃいけません。それから母親が叱ったことを祖父母がなぐさめるのはしつけにならないなんてことはありませんよ。子どもが接する人間関係は幅が広いほどいいのです。



夫婦の間や、近所で考え方が違う場合

【Q5】夫婦の間や、しつけ観が違う場合もよくあることだと思います。例えば、母親が厳しく子どもを叱っている時にちょうど父親が帰宅して、そこまで叱る必要があるかと言って母親を責めたというケース。どう考えたらいいのでしょうか。

佐々木正美 

/お母さんがやったことを責めるというのは間違いですね。叱られている子どもにお父さんが救いの手をさしのべてあげるならいいのですが。子どもがお父さんのところへ逃げていくというのは、決して間違いではありません。救われるということがどれだけ大切なことなのか、夫婦でもう一度話し合ってみてはどうでしょうか。
  

【Q6】集合住宅などでのご近所のつきあい方もトラブルが増えているようです。マンションの上と下で、子どもが騒ぐ、騒がないということでもめるケース。中には分譲マンションを購入したのに、階下の人との折り合いが悪くて、売って引っ越したという話しも聞いたことがありますが。

佐々木正美 

/近所のつきあいというのは、助けたり助けられたりすることで成り立つものではありませんか。お互いに迷惑はかけている。お互い様なのです。親しければ気にならないことが、親しくないから気になってしまう。健全に生きられませんね。音楽が好きでよくレコードをかけている人がいる場合、親しくなければ「うるさい」と思うだろうし、親しければ「本当に音楽が好きですね」となる。ささいな迷惑もかけないで生きていくなんてできないでしょう。そんな窮屈で非人間的なことなんてありません。頼る、頼られる。その両方の関係があるからこそ、人間は生きられるのです。それが社会性というものです。近所のつきあいをわずらわしいと思わず、自分から親しくなる努力をすることですね。 


佐々木正美 監修 ゆめこびと 編・著-子どもの心を育てる-「しつけの本」子育て協会より