9.優しさ

佐々木正美先生「優しさ」についてお聞きしました。インタビューシリーズ9 

Q.現代人は優しさを求め優しさに飢えていると言われます。結婚相手を選ぶ時も、優しい人、面白い人、生活力のある人といった順に…。

 「なるほどね」。

Q.そういう意味で、優しくしてくれてありがとう、みたいな感じの優しさを求める。先生は、優しくする人というのは自分も優しくしてもらいたい人なのだと言われたことがありますね。

●淋しい子の中に動物を可愛がる子がしばしばいる

「それはこういうことがありますね。動物をうんと可愛がる子というのは、友だちのいない子にしばしばいますね。動物を可愛がる子はみんな友だちがいないという逆の意味では必ずしもありません。けれども、動物を可愛がる子には、淋しい子が多い。あるいは淋しい子の中に動物を可愛がる子がしばしばいるということ、これは確かに言えますね。それは対話する友だちが少ない、あるいはゆっくり安心して対話できる親とか、きょうだいとかが少ないときに動物にそれを求めようとすることがあるのですね。だから自分が動物に向かって優しくしてあげる。それは本当は自分がそうしてもらいたいと感じている気持ちの裏返しの姿や表現である、ということですね。

●人に優しくできる人は、自分が優しくされていなければならない

 けれども今度は動物なんかではなく、人間が人間に優しくできるかということですが、自分が周囲の人に優しくしてもらってなかったら、一般に私たちは人に優しくなんてできないですよ。これはとても大事なことです。だから動物に優しいということと、友人に優しいということは全然別のことなんです。

 現代人はペットを猫可愛がりするほど優しい。で、その優しさを隣人に与えられるかというと与えられないんです。弱いものに対する優しさと、対等のものや自分より強い相手に対する優しさは、しばしば質が違うんですね。人に優しくできる気持ちと、ペットに優しくできる気持ちとは違うんです。

 なぜかというと、自分を裏切らないものに対しては、あるいは自分に危害を加えてこない、反抗しないものに対しては優しい。ところが、自分の方から気遣いをしなければならないものに対しては優しくない、よそよそしくなってしまうのです。まして自分より恵まれている人や強い立場にある人には、優しさどころか、反射的に無視や敵意を感じてしまう。人間には嫉妬の感情がありますからね。でも本当の優しさは、自分より恵まれているという人にも感じられる優しさのことでしょう。優しさとは、相手に対する哀れみではないのですから。そんな見下げた感情ではないでしょう。優しさとは。

 ところが現代人は自己愛的になりましたから、そういう見下したような偽りの優しさや愛情を抱いて、酔っている人がいますね。

 本当に人間同士で優しくし合えている人は、猫可愛がりをするほどのペットは持たなくてもいいんだと、基本的には思っているんです。でも結局は、人に優しくできる人というのは自分が優しくされていなければならないんです」。

Q.先生はこういうことを言われたことがあるんですね、「恋愛中の人は優しくなる」と。「そして家族に愛されている人はもっと優しい」と。

区切りの絵

●家族に愛されている人は一段と人に優しい

 「ああ、そんなこと言ったですか。なるほど、恋愛がうまくいっている時は、自分がいちばん愛されていることを感じているわけですから、だから自分が愛されて、優しくされてる時は優しいんですよ。人に優しくできるんです。このようにね、自分が優しくされなければ人には優しくできないんです。恋愛中はうまくいってるから優しくできるんですね。

そしてね、本当に自分が優しくされているといういちばん強い実感というのは家族に優しくされていることを深く実感する時で、恋愛なんかよりもっと安定した確かなものなんです。そういった意味で言ったんだと思うんです」。

Q.親は子どもに優しくしなければならないと。

「そうすれば子どもは誰かに優しくできるんです。だけど親に優しくしてもらえてない子どもというのは、人に本当には優しくはできないのです。優しくしてもらおうとして、おべっかを使ったり、周囲の考えに迎合したりはしますけれどね」。