7.教育者と保育者

佐々木正美先生「教育者と保育者」についてお聞きしました。インタビューシリーズ7

Q.教育者と保育者の今日の役割についてお話ください。

 「時代と共に教師、保育士の役割は変わって行くと思いますが、今日、特に大切なことをひと言でいえば、今の教師や、保育者は子どもの休み時間の落ちこぼれをなくして欲しいということです。仲間と自由に楽しくコミュニケーションすることが、人間にとって最も原則的なことですからね。それがない状態で、どんな課題を勉強しても、結局それは取ってつけたような実体のないものになってしまうと思います。

●教師は休み時間や放課後の意義を知らねばならない

 学校というのは、休み時間と放課後も含めてとっても大事な所だと思うんですね。私は特に近年、学校では休み時間と放課後が大事だと思っているんです。昔の子どもは、休み時間と放課後が楽しくて一生懸命だったんです。だから健康でしたね。現代っ子は、休み時間や放課後に仲間と一緒に生き生きと精を出せなくなって不健康になってきたわけです。校内暴力や家庭内暴力が起きたりもして。

ですから、教師はもっと休み時間や放課後の意義をしっかり知らなければならないと思います。教育的伝統としてといいますか、かつては、休み時間や放課後は子どもが自分たちで学びあえたのです。そういう能力を持っていたのですね。家庭や地域社会にも、子どもたちが共感し合って育つ土壌がありましたので、教師がそれをどうこう考えなくてもよかったんですね。だから教師は算数とか国語とかを教えていればよかったんです。他の重要なものは家庭と社会で育てた。ところが今日、家庭や社会ではそれを育てることがむずかしくなってきました。ですからより重要な人間としての感性や感情をこの自由時間にどう育てるか、それを考えなくてはならなくなったということですね。

区切りの絵

●美しい水、空気が大事なように健全な休み時間、放課後を

 美しい空気や水が自由に供給されている時代は、人間が生きるために最も大事なものはそれだと誰も特別には意識しなかったんです。だから食事にも高蛋白食だとか、上質の蛋白質だとか脂肪だとか言っていたわけです。ところが、空気や水が無かったら蛋白質どころではなくなってしまうわけです。ところが当時は空気と水は汚染されていないものがどこにでもあったので、栄養学者あるいは生命学者はそのことの重要性を考えることがなかったんですね。ところが今は、空気と水に相当するような休み時間と放課後を、子どもは健全に過ごせないのですね。昔の学者が蛋白質や脂肪、炭水化物やビタミン、ミネラルと言ったのとは逆に、今や美しい水、美しい空気を大事にしなければならなくなりました。健全な休み時間、健全な放課後を、教育者はぜひ意識して欲しいと思います」。

Q.  教育者というのは、子どものもつ特性をよく見て、良いものを伸ばして行こうという気持ちは強いと思います。担任の先生が書く、通信簿の生活欄は実に的確に書いているような気がします。また弱点や欠点の指摘は更に正確ですね。

 ●教師も保育者もその子のかけがえのない良さを見つけて気づかせてやる

 「なるほど。そうだと思います。しかし好ましくないことをうまく直すというか、教育するというのは必ずしもうまくない人がいるんですよ。だからそこが一つの問題です。それからもう一つ大事なことは、子どもというのはどんな子どもでも、弱点や欠点はあります。同時にどんな子どもにも素晴らしい長所があるわけです。本質はそうだと思うんです。

欠点しかないとか、長所しかないという子はいないでしょう。欠点や弱点を指摘する方がやさしいんですね。長所、いわばその子のもっている美点というか、いい面を発見する方が一般に教師にはむずかしいと思いますね。へたな先生が多いと思います。長所に気づくことができない先生がいますね。

 ですから、どんな子にも長所を必ず発見できるように。発見というの単にうわべだけで感じるということではなく、そのことに教師は深く感動しなければいけないと思うのです。『○○君、すごくいいな、こういうところが』と、本当に感じてあげなきやいけないでしょう。どれくらいそのことに共感できるか、共鳴できるか、ほれぼれできるか。教師がです。

 『君、ここがいいよ』という程度では駄目です。『本当にいいなあ』と気づいてあげる。教師も保育者もそれぞれの子に、他の子にかけがえのない良さを見つけて、それを本人に気づかせてあげるのが教育の原点だと思うのです」。