6.長所と短所

佐々木正美先生「長所と短所」についてお聞きしました。インタビューシリーズ6

Q.誰でも長所と短所、欠点というのは持ってるわけですね。その欠点を指摘されると人間はそれを反省してよくなっていくかというと、どうもその欠点通りの人間になっていくような気がします。のろまと言われるとのろまな子になるような…。

●子どもたちへの指摘は、長所を多く、短所は少なめに

「そうですね。まず長所の方をたくさん指摘され、それから短所の方をちょっぴり指摘されると、非常に短所に対する取り組みがよくなるんです。というのは、自信のない子は自分の弱点なんか直せませんね。自信のある子は直せると思いますけどね。だから子どもたちに指摘すべきことは、長所をたくさん、短所は少なくていいということです。たいてい、間違った教育というのは、長所はあたりまえに見過ごしておいて、欠点の方を一生懸命修正しようとするところです。そこに教育がうまく行かない理由があるようです。私たちはうっかりすると、長所より短所のほうに敏感になって、そこを直そうとする。子どもの希望に応えるより、親の希望や教師の希望に応えてもらおうとするようなことをたくさんやります。まずは、これを反対にすることです。

●どんな面も片側からみると長所、別の側からみると短所

 どんな長所も別の面から見れば短所、どんな短所も別の面から見れば長所になるんですね。どういうことかというと、例えば、学校で忘れ物の少ない子というのは、一般的に言うと神経質で臆病な子ともいえます。忘れ物が少ないという意味では注意深いし、用心深いし、ある意味では長所です。ところが臆病だとか、神経質、不安が強いという意味では短所ですね。ですから、ほどほどに忘れる子がいいんだと私は思っているんです。程度問題ですから、全く不安がなくて年中忘れ物をしているというのでは、これまた困るでしょう。そのように、どんな面も片側からみると長所であり、反対側からみると短所になるのです。自分の子どもはこんな欠点があって困っていると思っても、それも別の面からみると長所なんですね。だから同じ性格を、欠点にみてしまうか長所にみるかということがあるでしょう。

●小さい時であればあるほど かたづけの上手な子は心配

 子どもの中に、まれに持ち出したおもちゃを親の言うままに、ちゃんとかたづけてから次のおもちゃを出すという子もいるんですね。それを、いつもかたづいていてきれいだから長所だというかもしれないが、そんな子がいたら、ある意味では心配ともいえます。遊びというのは、いったん中断してかたづけて気持ちを入れ替えて次の遊びをなんて、そんな勢いのないものではないのですね。やりたい時にはワーツとやりたいということでしょう。子どもというのは、思いっきりヘトヘトになるまでおもちゃを出して遊んで、終った時にはくたびれて、もう散らかしたおもちゃをかたづける元気がないというほど精いっぱい遊ぶものです。ある意味からすればこれが本当に健康な状態です。

そうしますとかたづけが下手な子とか、汚し放題散らかし放題の子とかいうように親からはみえる。だけどそれはむしろ長所なんです。程度の問題はあるかもしれませんけど、小さい時であればあるほどかたづけの上手な子は、遊びへの活力や意欲が乏しいともいえるわけで、心配でしょうがないです。ですからどんなものも、長所、短所というのはみんな背中合わせなんです。

一つのものをどこから見るかによるわけですね。どんなものも、そのまま短所であり長所ですから、この子はこんないい点があると親がみていると、それはとんでもない短所であったりします。

●障害児の兄弟姉妹は、〝思春期危機″になりやすい

 この頃、心身障害の子どもに会っていて思うことは、心身障害の子のきょうだいというのは、小さい時には大変親に協力的でいいのですね。なぜかというと、幼い心にも親の苦労が分かるから無理を言わず協力的なんですよ。ところが、思春期の頃になるとかなりたくさんの若者たちが、自立性や、自主性の乏しい、そして情緒的に不安定で荒れやすくなりますね。

それはなぜかと言うと、小さい時にいい子であり過ぎたんです。いい子というのは長所にみえます。聞き分けがよくつて、協力的で、わがままを言わない。だけどそれは自主性とか主体性を極度に殺して大きくなってきたわけでして、思春期に至って自分が自立していくための進路をしっかり見極めなければならない時に、自分というものが見えてこないわけです。ですから思春期に特有の混乱を起こしやすい。いわゆる〝思春期危機″という状態に、非常に多くの障害児のきょうだいがなりやすいんですね。そのことで今はよく注意するように家族に呼びかけているんです。

●自分を殺すことや我慢することは、自分を見失うことでもある

 そのように、一般に長所という場合には、親とか社会とか、周りの人にとって都合のよいことが長所になっていて、都合の悪いことは短所になっているわけですね。それから、年齢も考えてあげなくてはいけないですね。自分の気持ちをおさえて我慢するということは、立派なことにみえますけど、実は、幼い頃からそれをやりすぎることは自分を見失うことでもあるのです。自立を妨げることでもあるのです。そういう意味で、どういう我慢というか、どの程度の抑制なら自立につながるのか、また逆になってしまうのかということをよく承知してないといけないと思います。長所はそのまま短所、短所もまた、そのまま長所であるということも知ってなければなりませんね」。