3.人間関係について

佐々木正美先生に「人間関係」についてお聞きしました。 インタビューシリーズ


Q.人間関係は何が基本になっているのでしょうか。

「家族にとって、友だちや近隣等を大事にすることが、どんなに大事かということを折にふれて言ってるわけです。子どもが友だちを呼んでくるとか、友だちのところへ行くとかといったことを親は一緒に喜んであげる。親自身も近所の人たちとお付き合いをしたり、父母会やPTAの役を、そんなにひどく辞退しないで引き受けたりとか、そのようなことをしていると、だんだん子どもたちもそうなってくるでしょう。

わが家が決してモデルとか理想とかいうわけではありませんし、欠点や弱点だらけの家族ですが、息子たちの生活の、面だけを、彼らのプライバシーを害しない程度にお話ししましょう。

今朝はいちばんの上の息子は、オーケストラの練習だと言って早くから出掛けてるわけです。真ん中の子どもは、テニスクラブの練習だとこれも出掛けて行くわけですね。いちばん下のは、すごいコンピューターゲームがある友だちの家へ行くんだと、言ってるわけですよ。いちばん上の子は、明日の休みの日は今度は別のグループとサッカーの試合をしに行くと言うわけですね。オーケストラというのは、自分が行っている大学の仲間との定期演奏会があって、それで練習してるわけですね。明日は、つい先だってまでいた高等学校の仲間たちとサッカーの同好会をつくっていてその試合をするという。立派なユニフォームまで作ってやっているようです。(注)

●いろんな仲間とコミュニケーションがあると生き生きする

更に中学時代の仲間の一人、サイクリングがとても好きな子がいて、全然違う高校、大学へ行ったんですが、その仲間ともサイクリングに行くんですよ。皆それぞれが親しい友だちをいっぱい持っていて、僕はいいことだと思ってるんですね。でも、ちょっと自由すぎたかなとも思ってね。いちばん上の息子に対して、外出しすぎだとか家内が言っているわけです。真ん中の子は、今日はテニス、明日は大学のコンピュータークラブの新入生の歓迎コンパだとか何とか言っています。大学が八王子の方にあるもんですから、夜遅くなったら母方の祖父母の家に泊まるから、頼んどいてよね、なんて言ってました。

そういうふうに、いろんな仲間といろんなコミュニケーションがいっぱいあるわけですね。だから本当に、生き生きしてますよ。友だちが家に泊まりにも来ますしね。孤独じゃないというのは生き生きしてますね。毎日、ある程度楽しい予感のある生活を送っているわけで、朝、起こすのに親は苦労しませんよ。親の方が寝過ごして起こされたりしています」。

●くたびれている大人も釣りやゴルフに行く朝は早い

Q.孤独な人は朝に弱いといいますが…。

「大人の場合は、夜中の仕事が入ったりとか、まあ、いろいろあるでしょうけどね。今日の一日に楽しみが予感されれば目覚めがいいでしょう。今日これから始まることがきっと楽しいというイメージがなかったら起きられませんよ。くたびれ果ててる大人だって、釣りに行く朝とか、ゴルフに行く朝は早く起きられるんですから。
子どもは昨日が楽しかった、だからきっと今日も楽しい、それが健康ですよね。子どもの時から「起きたってつまんない」なんて言うんでは、これはもう本当にかわいそうですね」。

Q.子どもが友だちと予約して遊ぶ時代なんてかわいそうですね。


「そうです。私たちが子どもの頃は、朝起きたらさっさと学校へ行く。朝いちばんに行ってね、学校が始まるまでの時間の楽しみを求めてとにかく早く行ったでしょう。ああいう時代は親が子どもを起こすのに苦労するということは全くなかったですよね」。

Q.今、子どもを育てていくうえで、親は意識して愛情を十分かける。そして自分が信じられる子にする。あわせて、親自身も人間関係を持つことが大事というわけですね。

●感謝と尊敬は体験だから、体験者の側にいないと育てられない

「もう、決定的にそれです。特に親自身の人間関係は大事です。親が人をどう尊敬してるかとか、どういうことでだれにどう感謝してるかとかです。感謝とか尊敬は、これは理屈や観念ではなくて、現実の体験ですね。実際に体験してる人の側に子どもがいなかったら絶対に育てられない感情や感性ですよ。日頃、感謝のない親の側にいて、感謝をする感晴なんて子どもの中にわいてはきません。いくら言葉で感謝しなさい、ありがとうって言いなさいと言ったって、そんなことはできっこない」。

Q.親がモデルになっていれば自然に出てくるものなんですね。

「そうです」。

Q.集団の場でも保育者が、感謝や尊敬の言葉を常に発していれば子どもたちはどこかでそういう言葉を覚えて、それが自然に出てくるということなんですよね。

「そうです。本当に感謝してなくてはだめなんですよね。保育者とか教育者とか親とかが、人を尊敬してなくてはなりません。先生を尊敬したり、クラスメートに感謝するような感情の体験を全くしないような子どもになったら、不幸ですしそら恐ろしいような気もします」。

Q.人間関係が本当に、努力しなくてもすっといける人というのはそんなにいないと思うんです。初めて行く所は不安があります。それぞれ、ある意味で努力しています。極端にいいますと、何も警戒心がない子が人さらいにさらわれてしまう。

区切りのライン

●子どもは無条件で人に接するのが楽しい

「子どもというのは本来それで良かったんですよ。だから子どもは、よその家におよばれに行くのが嬉しかったり、お祭りが嬉しかったり、お客さんが来るのが嬉しかったりと、要するに無条件で人を信頼して接することができるのが本来の子どもだと思うのです」。

Q.警戒心がないのが子どもらしいのですね。

「親を信じてるからよその人を信じるんですよ。現代っ子の中にはいろんな程度に親が信じられないために人を警戒したり、不安を感じたりする子が大勢います」。

Q.そうしますと、例えば、人間関係で大変努力しなければならない人が親になった場合、我が子に対して、人間関係が身についている人と比べると、かなり努力が必要なんだろうと思います。意識して努力をしないと子どものプラスになっていかない。

「人間関係は質も大事ですけど量が足りなければ不建全な人間になると思います。いわば心の栄養失調です。人間の精神の健康のために、人間関係は身体の健康のための食べ物と同じですね。とくに育ち盛りの子どもには、質を問う前にまず量が大切でしょう」。

Q-人間関係が上手な人と結婚するとか。そういうパートナーを持つとか。夫婦というのはよく、同じレベルの人が一緒になるなんていわれますが、正反対のカップルもありますでしょう。それでかえって相性がいいとか。

「正反対というのは、ある意味で役割が別のものが持てるということと、それから自分にないものを相手があるから依存し合えるとかということがあって、いい場合があるんですね。一方、似た者夫婦では共通の生きる場がいっぱい持てていいっていうことになるしね。違いは違いで今度は自分にないものを相手に求めることができるということでいいものがあったりしますからね。なぜ、夫婦がうまくいく人といかない人がいるかというと、基本的には、人を尊敬する気持ちがあるか感謝する感性があるかということだと思いますよ。どんな人と結婚したって仏の顔も三度ですから、三日したら仏様だってあきちゃうっていうでしょう。ミス○○だってダメですよ。そりゃ、仏様には及ばないですからね。二度、三度でもうたくさんになってしまうでしょう。

●隣の人に尊敬すべき点が絶対にある

ですから、その人の中にある良さに気づく感性がなくてはダメですよ。それから何してもらったって当たり前の気持ちでいるんではダメですね。感謝がない人は人間関係が長く続かないでしょう。夫婦で大げさに尊敬し合うっていうのはおかしいですけど、だけど、やっぱりある種の尊敬の気持ちはお互いに抱き合っていないといけないですよね。

何も功なり名をとげた人とか、著名人を尊敬するんではないんですけれど、人間というのは、隣にいる普通の人にも、自分にはない良さに気がつけるものなのです。こんなことがこの人はできるんだという、尊敬すべき点は絶対ありますからね。それはどんな人にだって必ず長所はあるのですから感じられる人には感じられるものですが、残念ながら、それを感じない人は感じないですね」。

(注 このお話は先生のお子さんが学生時代のお話です)