佐々木正美先生「ストレス」についてお聞きしました。インタビューシリーズ14
Q.子育てをしていく上でのストレスを感じている人は多いと思います。ストレスには良いストレスと悪いストレスとありますね。
●人間関係の中でストレスを感じ、ストレスの解消も人間関係で
「ストレスの全くないところにいる人は向上しないでしょう。我々がストレスという場合には、過剰な病的なストレスを言うんだろうと思うんですね。というのは、自分で解決できない精神的な苦痛をどういう部分で感じるかと言うと、基本的には、人間関係の中で感じるわけです。だけど、とても大事な事は、ストレスを解消するのも人間関係の中で、ということです。人間関係がほとんどないという人は、だいたいストレスを感じていきます。ためていきます。ヒステリーの人なんかそうですね。ボーダーラインパーソナリティーの人も、基本的にはそうですね。安らげるような人間関係を持てないのです。持てなければ持てないままでいたら、気楽でいいだろうと考える人もいるかもしれませんが、そうではないのです。黙っていたって、ストレスのない人はいないわけです。欲求不満はある意味では、向上心ですね。向上心のない人もまたいないわけです。ある欲求が、満たされれば、次の欲求が出てくるようになって、人間は必ず欲求不満を持ってしまう。自分で解消することのできないほどの欲求不満になると、それはいわば病的なストレスですからね。
●現代人はなぜストレスが多いか。ストレス解消の人間関係がない
ストレスを解消する鍵は、人間関係の中にあるといえます。ということは、いい人間関係をもたなければ、人はストレスがどんどんたまっていく。早いテンポか遅いテンポかは別として。だから、いい人間関係をもつ必要があるのです。一人でいる方が、退屈で苦痛であって、誰さんたちとコミュニケーションする時の方が、ストレス解消になるんだというふうな人や家族、友人、知人を持たなければ人はストレスを解消していかれないのです。
現代人が、なぜストレスが多いかというと、ストレスになるような人間関係が多く、ストレスを解消できるような人間関係を持たないからです。早い速度で仕事をこなしながら、息のつまりそうな人間関係を持たなければならない職場、その他でストレスになる。そして、人間関係のなかでストレスを解消するような気心の知れた、安心できる友人、知人、家族がいないために、ストレスが解消できない。こういう状態は最悪です。孤独というストレスがあります。対人関係にストレスを感じて、逃げこんで一人でいるということは、ストレスの解消にはならないのです。一時的な休息にはなっても、ストレスはたまっていくばかりです。ということを知らないといけないですね」。
Q.人間関係で感じて、人間関係で解消するということは、育児中の母親からすれば、ストレスは当然あるわけですが、夫とコミュニケーションを積極的にはかるとかすれば、かなりストレスは解消できますね。
●夫との関係でストレスを感じ、近所に親しい人もいないと、不幸な場合は子どもの虐待に
「そうですね。それに近隣にストレスが解消できる交わりのある友人、知人がいればもっといいですね」。
Q.夫に対してストレスを感じる人もいますね。
「そう。それは不幸なことですよ。これでストレスを解消できるいい友人とか、知人がいなかったら、もう大変です」。
Q.子どもに八つ当たりをする。
「そうです。虐待というのはそうですよ。友だちはいない、夫との関係もよくない。子どもを虐待してしまう親というのは、例外なくそうではないですか。夫との関係にも、ある種のストレスを感じる。近所にも親しい人もいない。親類の人たちやかつての友人とも疎遠になっている。そんな人間関係の閉鎖的状況の中から、しばしば自分の子どもを虐待してしまう母親が出現するのです」。
Q.先生は離婚ということについては、必ずしも否定的ではないですか。
“離婚しない方がいいよ”という意味では肯定的です。だけど離婚しないで、無理やり一緒にいることが、もっと不幸になるのなら、まあ、次善の策として、離婚した方がいいというは場合はありますね。とりわけ子どもがいれば離婚しないために最大の努力をすることは当たり前です。子どもがいなかったら、それは自由にしてもいいかもしれません。
●子どもにマイナスの負担を与える場合は、離婚したほうがよい
子どもがいる場合の離婚というのは、例外なく子どもに多大の犠牲を与えます。子どもの受ける精神的衝撃は、計り知れないほどでしょう。だけど、そのまま結婚を継続していることが、子どもにそれ以上に大きな衝撃と負担を与えるということもあります。ケンカばかりしているとか、ののしりあっているとかということがありますから。そんな場合には離婚した方がいいに違いないと思う。だけど、そんな悪い結婚ではないことは望ましいわけで、基本的には、離婚はしない方がいいと思います。例えば身体の病気や怪我の場合、腕を切断するとか、足を切断するというのはギリギリ最終的な選択でしょう。怪我の状態とか、腫瘍の状態とかによって、四肢や内臓を残しておくことがより悪い結果を引き起こすのだったら、切除や摘出して無くしてしまう。だけどそれは、最終的な選択ですよね。できれば何とか四肢や内臓などを残したまま治療する努力をするように、離婚はしない方がいいという意味合いです」。
Q.多少の波は、乗りこえるべきだということですね。
「そう、努力して、人間としての知恵でね。もし離婚するようなことをしたら、自分の生活や生き方を相当犠性にしても、子どもへの償いをし続けなければならないでしょう。罪の償いですね」。
Q.子どものこと、嫁、姑のこと、お金のことで悩んだり、健康で悩んだり、いろんなことを乗り越えながら、なんとか、夫婦は本当の愛情が生まれてくるのではないでしょうか。
「そうですね。貧しいから、姑がいるからというようなことでいえば、昔の家庭は全部離婚ですよ。80~90パーセントの家庭は貧しかったんですね。三世代同居です。でも、今の人間ほど不満を感じなかった。今の人間の方がある意味では、わがままですよ。前の人間の方が、夫婦の間でお互いにもっと良さを感じ合っていた。今よりはお互いに感謝をし合ってました。今の人の方が互いに感謝も共感もしにくいし、成田離婚なんてあったりするでしょう。
新婚旅行中にいや気がさしてしまう感覚なんて、かつてはまるでなかったと思う。いやなことは些細なことでもすぐ嫌になってしまうし我慢ができない。人の嫌な面がよく見えて、いい面が見えない。相手にいい面がないはずはないのにね。そういうふうに今の豊かさと、自由さとは、人の心を変えてしまっているわけです。一言でいえばわがままになっているんです。今の文化とは、どれだけ人が、わがままにしていられるかということと同義でしょう。物質文化、物質文明というのは、人間がどれくらいわがままでいられるか、楽でいられるか、気ままでいられるか、基本的にはそういうことです。醒めた言い方をしてしまえばね。人は一生懸命豊かにと考えてきたんですけど、豊かさとはそういうことで、それ以外のものだと思ったら大変な間違いなのですね」。