しつけを考える4

佐々木正美

子どもの個性をのばすしつけとは

【Q15】話しは変わりますが、子どものよいところ、個性を伸ばすにはどうしたらいいでしょうか。子どものいい面を認め、個性を伸ばしてあげたいと思っても、実際は本当にむずかしい。

佐々木正美/

子どもは自分に自信がもてた時、初めて個性的に生きられるのです。それにはできるだけ無条件の愛情に恵まれて育つことが大事ですね。~すれば~してあげるという条件付きの愛情ではありませんよ。無条件に愛されれば愛されるほど、自分は大切な存在なんだと思い、自信をもてる。~ができなくても、あなたのことをこんなに大事に思っていると伝えることで、子どもは自分の価値の大きさに気づくのです。それが自信につながり、個性的に生きられるようになる。自信があれば人の顔色を見なくても生きられるから、個性を出せるわけです。自信がないほど、寄らば大樹の陰となって、偏差値の高い学校や大企業に属さなければ安心できない人間になってしまうのではないでしょうか。

【Q16】親は子どもに自信をもって生きてほしいと願い、それは何か一つでもいいからできることをみつけることだと思ってしまいます。

佐々木正美/

何かができることが自信だと思うのは最大の間違いですね。
できるという自信は、自分よりできない人の前では優越感になり、自分より以上にできる人の前では劣等感になる。優越感と劣等感は表裏一体の関係なんです。
何かができるようにと育てられた子どもは、自分より優れた子を友達にすることもできないし、自分より劣った子も友達にできない。~しなければダメだと日々言われ続けていると、どんどん自信をなくしてしまうのです。こんなに価値があると思われて育った子は、優れた友達をもつことが喜びになり、自分のもっているものは人に素直に伝えられる。重い病気をもつ子の親が、わが子が生きていてくれるだけでいいと願うその気持ちこそ、子どもに最大の自信を与えるものでしよう。

【Q17】~ができる、できないではなく、子どもを丸ごと受けいれて無条件に愛したいと思っても、情報があふれている現代ではどうしても他人の情報に振り回されてしまうのですが。

佐々木正美/

自信がないから、人の情報で生きようとするんですね。夫や親、友人、近隣との関係はどうでしょうか。周囲との関係のいい人は、情報に振り回されない。孤独な人ほど振り回されます。人との信頼的な人間関係がある…要するに人を愛し、愛されているほどその人は自信をもち、自分のやり方てやっていけるのでは。

なるほど、子どもと同じですね。

佐々木正美/そうです。人に頼る、頼られるという豊かな関係が必要です。親子関係がとてもよくても、親子以外の人との関係がよくなければ健全な子どもは育ちません。母子家庭でも子どもはちゃんと育ちます。でも母子の関係しかない場合は、ゆがんでしまうのです。

区切りの点

しつけの道しるべはあるか

【Q18】子どもの発達の目安や課題ということがよく言われていますが、今の親は平均値というものにとても敏感です。首がすわる時期、歩く時期、おむつをとれる時期…。個人差があるとはわかっていても、しつけをする上での道しるべのようなものを求めてしまうのですが。

佐々木正美

/ハイハイを始めるとか、二語文が出るとか、確かに平均的な時期というのはあります。でも平均値はあくまで平均値。早い子が優秀な子ではありません。人間ほどゆっくり成長する動物はいないのです。生まれてから一年も歩かない。生まれた時に未熟であればあるほど学習力をたくさん身に付けます。子どもの発達は、正常範囲内であれば遅い方がしっかり充実して育ちますね。

現代の親の孤独な傾向の一端ですが、子どもを親の望んだ子にしようとしていませんか。偏差値の高い子なら受けいれられるとか、並みの子では受けいれられないとか。ましてや障害児ならば全く受けいれられない。その子に最善を尽くすのではなく、自分で美化した生き方を思い描いて、それに合わないと絶望する。とても不安定で孤独な姿だと思います。

【Q19】親の言うことばかりを聞かせようとしてしまう…。

佐々木正美/親の言うことをよく聞く子にするには、日頃、子どもの言うことをよく聞いてあげなければ。子どもの言うことを聞かずに、親の言い分だけ聞かせようなんて無理です。親は子どもの何倍も聞いてあげなければ、子どもは親の何分の一も聞いてくれませんね。

いろいろと有意義なお話をたくさん伺うことができたと思います。私たち自身の子育てにおいても大変参考になりました。子育てで大事なことは、親が孤独にならないこと、豊かな人間関係をもつことだというのがよくわかりました。

佐々木正美/そうですね。安らぎのある人間関係を親がもつこと、人と一緒にいる方が安らぐという子どもに育てることですね。「育児書より仲間を」です。

佐々木正美 監修 ゆめこびと 編・著 -子どもの心を育てる-「しつけの本」
 子育て協会より