親に暴力を振るう子
佐々木正美
この前、自分の子どもを虐待する若い母親が多くなっていることを紹介した。
子どもがきげんよくしていると、子どものことをよくかわいがる母親なのだが、子どもの期限が悪くなったり、夫との仲がうまくいかなくなると、さ細なことで自分を失って、乳幼児にひどいせっかんをする。そして、子どもの容態の急変を目の前にして、ぼう然と立ちつくす母親もいれば、改めてショックを受けて錯乱に陥るものもいる。
同じような事態を、思春期の男性に見ることが多い。両親に向かってひどい暴力を振るうのである。最初は妹や弟に乱暴をし始めて、やがて母親に、そしてついに父親にも及ぶことになる。
弟、妹に乱暴をしているうちはそれほどでもないが、両親に攻撃の方向を向けるときは、まさに「窮鼠(きゅうそ)ネコをかむ」という状態で、せっぱつまっての行動である。なぐられて耳の鼓膜や眼球を破損した母親や、鎖骨やろっ骨を骨折した父親の話など、もはやそれほど珍しくはなくなってしまった。ところが、きっかけはごくさ細なことで、このようにせっぱつまってしまうのである。
思い返すとつい半年ぐらい前までは、素直で従順ないい少年であったというケースが多いが、こういう問題の根は、それ以前から何年にもわたって育てられてきている。
こういう少年や若者は、あまりにもあてがいぶちの日常生活を押しつけられてきすぎた、という場合が多い。
山のように豊富なおもちゃを与えられ、危険のない親の目がよく行き届くところで、いじめっ子やいたずらっ子のいない環境でしか遊べないように習慣づけられ、時間がくればおけいこごとや塾の時間が待っている。学校でさんざん勉強して帰って来ても、まず宿題をしてからでないとおやつももらえないし、遊びにも出してもらえない。
親の思い通りにいったときには大げさに称賛され、その逆の場合にはひどい落胆や怒りの顔を見せられてきた。彼らは、親の顔色をうかがいながら成長しているうちに、自分でものを考える習慣を培うことができないまま思春期を迎えてしまって、実体のない自分はひどい不安と困惑を感じているのである。
行動の内容は、3歳前後の第一反抗期とか、自我成熟期とか呼ばれる時期のものにほぼ等しいのだが、腕力だけが育ってしまっているために、家族の被る迷惑や混乱は大変なものになる。

これまでの内容
1.思春期やせ症の治療
2.反省を欠く補導少女
3.自我の形成
4.自殺への傾斜防止
5.遊びを知らない
6.「群れ」から「集団」へ
7.子どもは手作りで
8.不安生む社会的孤立
※約30年以上前に佐々木正美先生が寄稿されたものです。当時の文章のまま掲載いたします。定期的に更新予定です。