児童精神科の臨床から 1

佐々木正美


中学3年生の少女が、ある時から急に食べ物を拒否し始めて、どんどんやせていき、ついには生命の危険な状態になったので入院治療を受けることになった。

少女は小学校の時から、常に学業成績はクラスで一番であった。母親は少女の小学校入学当初から学業には強い関心をもち続け、下校すると宿題の点検にも余念がなかった。
少女は2年生の初めから学習塾に通った。母親は、娘の担任教師に「宿題の出し方が少な過ぎる」といって抗議する親たちのグループの熱心なリーダーであった。
娘のテスト結果が100点だと歓喜し、98点だと失望した。

その少女が中学に入学したころから、女性らしい服装をするのを嫌がるようになった。ブラウスやスカートを拒否して、ジーンズやそのほかのズボンしかはきたがらず、男っぽいシャツばかりを着るようになった。
中学2年の夏ごろから、自分の第二次性徴を拒否するかのように、乳房の膨らみをけん悪し、わき毛や恥毛を毛抜きで執ように抜き取るようになった。そして翌年の中学3年の4月になって、突然拒食をし始めたのである。

入院中のある時、彼女は自分の父親への嫌悪を激しく語った。会社から帰った父親が、入浴後パンツかスボン下だけの格好で晩酌をするのが「不潔」だという。
思春期やせ症の少女が「不潔な」大人になることを拒否して、自分の成熟を嫌がるのは、こんなところに動機のあることがある。

また彼女は日記に、母親の支配的教育に反抗して「天涯孤独」になりたいとか、自分が自殺したら母親はどんなに慌てふためくだろうか、そんな反抗的、攻撃的なことを空想して楽しんでいるような記述があった。
この日記を盗み見た母親のショックは大きかった。が、やがて自らが永年の問、娘を支配的に良い子に育てすぎてた結果が幼児のような非現実的な願望や反抗心をもった思春期の少女につくりあげてしまったことに気づいた時、母親の少女への対応は治療的になったといえる。

本症に対する治療的対応は、多くの場合、親の支配を取り除いて本人の自我成熟や自主性の発達を援助することに尽きる。

※約30年以上前に佐々木正美先生が寄稿されたものです。当時の文章のまま掲載いたします。定期的に更新予定です。

Mind子ども相談室から
思春期やせ症は摂食障害によるところが大きいです。拒食症または過食嘔吐の症状を示します。
摂食障害の相談でお話しを聴いていますと、様々な心理的要因が複雑に重なっていることが多いように感じます。摂食障害になる人は責任感や罪悪感が強く感受性が豊かです。そのため対人関係で傷つきやすいようにも感じます。
親自身が自分自身の生き方を見直したり、丸ごと自分自身を受け入れてくれるパートナーと出会えることでよい結果に結びつくことがあります。
心のクリニックを受診しようとして場合によっては断られることがあります。とても時間がかかり難しい病です。早めの対処をお願いしたいです。