母性と父性について考える

 佐々木正美

  

母性と父性について考える

赤ちゃんを抱くお母さん●だれでももっている父性と母性

 

子どもを育てていくうえで、母性と父性という機能はとても大切なものです。 親が子どもを育てることを幸せに感じ、子どもも「お父さんお母さんの子でよかった」と思えるような、親子の絆をつくるために、母性と父性、あるいは母性的なものと父性的なものについて、ここであらためて考えてみましょう。

 そもそも母性とはなんでしょうか。父性とはなんでしょうか。

さまざまな定義がありますが、私はこのように考えています。

 

・母性とは「無条件の保護」=やさしさ

・父性とは「条件つきの愛情」=厳しさ

 

子どもにとっては、ありのままのその子を受け入れ、認め、そして絶対的なやすらぎを与える力が母性です。保護してくれる存在ですね。

 

これに対して、父性とは、これはしてはいけない、こうしなければならないというルールやマナーを教える力です。 つまり、しつけというのは父性の部分でしているものなのです。

 

母性はなんでも許してしまいますが、父性は許されないことを示し、制限する。いずれにしても、両方をバランスよく受け取りながら、人は成長し、人格を形成していくのです。ここで注意していただきたいのは、

 

母性的なものと父性的なものというのは、男性女性に関係なく、だれもがもっているものだということです。女性のなかに父性はありますし、男性のなかにも母性はあります。

 

それはつまり、たとえ母子家庭、父子家庭であっても、子どもに母性と父性の両方をバランスよく与えることは不可能ではないということです。片親で子どもを育てる不安を抱えている方もいらっしゃると思いますが、一人で父性的な役割と母性的な役割を担うことはできます。安心してください。

 

片親で立派に子どもを育てている親がいる一方で、両親がそろっているのに母性的なものも父性的なものも不十分な家庭はたくさんあります。むしろ、そういう家庭が年々増えているように感じます。

 

母性と父性はバランスが大切だといいましたが、どちらか一方が強すぎたり、足りなかったりすると、子どもによくない影響が出ます。

 

母性が強すぎると、甘えん坊で自立できない人間が育つ。

父性が強すぎると、幼児性と攻撃性が出てくる。

 

最近の傾向として、「そんなことしちゃいけません」「お母さんのいうとおりにしなさい」と厳しく制限する、父性の強い家庭が目立ちます。思春期になって大人のいうことをきかずに暴力的になる子や、手のつけられないわがままな子は、非常に厳格な家庭で育てられた子が多いですね。 お母さんにはもっと母性を発揮してほしいと思います。子どもにとっていちばん大切なのは、「どんなことがあっても、親は自分のことを愛してくれる、守ってくれる」という絶対的な信頼感と安心感なのです。

 

この無償の愛を与えられるのは、母性でなければできません。

 

●与える順番は母性から父性

 

子どもが健全に育つためには、第一に、母性的なものが家庭に必要です。母性的なものが十分に与えられてからでないと、子どもは父性的なものを受け入れることができません。

 

 母性的なものが家庭にある状態とは、どのようなことをいうのでしょうか。それは、ひとことでいうならば、子どものことを無条件に好きになることです。無条作に、ですから、「こうあってほしい」という思いがそこにあってはいけません。ありのままの姿を受け入れ、「父さんと母さんは、おまえのこういうところが好きだ」と心からいえたり、感じたりできていることが大切です。

 

 どんなときも、子どもをそういう気持ちで包んであげれば、「おまえのことを愛している」などと口にしなくても、子どもには十分伝わります。「お父さん、お母さんは自分のことを好きでいてくれる」と思えるのです。

 

それが『まるごと抱きしめる』ということなのです。母性的なもので家庭が満たされていたら、子どもは自分の家で安心してくつろげます。外でどんなにつらいことがあっても、家に帰ればほっとできる。やすらげる。そういうものを、家庭のなかにつくりだすのが母性的な機能なのです。

 

そして、父性的なものを伝えるには、こうした母性的なものが子どもたちのなかに十分伝わっていることが重要です。母性によって、「自分は自分でいいんだ」という自尊心がしっかり育っていないのに、しつけや厳しい教育的なことをいっても伝わりません。子どもはうまく育っていけません。

 

母性的なものが伝わったあとに、父性的なものが伝わる。

 

このことをしっかりと知っておいていただきたいと思います。

多くの方が、ここを勘ちがいして子どもを育てているように見えます。子どもをしつけたり、教育したりするとき、私たちはしばしば父性的なものが先に立ってしまいがちです。子どもが何か悪いことをしたときに、「そんなことをしてはいけない」と叱ります。しかし、それでは子どもには通じないのです。母性が十分に伝わっていない子どもに、いくら父性的な部分でしつけようとしてもうまくいきません。

 

こういう例で説明するとわかりやすいでしょうか。社会には、ルールやマナーを守れない若者がいます。犯罪はその最たるものですが、もっと日常的なことでいえば、道端にゴミを捨てたり、電車のなかで携帯電話を使って話をしたり、深夜に爆音を響かせながらバイクを走らせたり……。

 

大人のなかにもこうしたルール違反をする人はいますが、彼らに「やめなさい」といったところで、伝わりません。注意して「わかりました。もうやめます」と思えるのなら、だれでも注意するでしょう。

 

でも、多くの場合、ルール違反を指摘しても事態はよくならないことを知っている。だから、街でルールやマナーを守れない若者がいても、見逃すのです。あるいは、注意をされたことで彼らが気分を害し、注意した相手を傷つけてしまうかもしれません。だから注意をしないということもあるでしょう。

 

社会のルールを守れない若者を見ると、人は「親が厳しくしつけないからだ」といいますが、私はそうではないと思っています。彼らが社会から逸脱するような行為をして、注意を受けてもやめないのは、小さいときに母性的なものを十分に与えてもらえなかった結果だと見ているのです。

 

子どもが社会に適応していくには、まず母性的なものからスタートさせることが大切です。本当は、小さなときからそれができていればよいのですが、いくつからでもかまいません。

 

「わが家には母性的なものが不足していた」「小さいときから厳しくしつけてきた」と思われるならば、どうぞ今日から母性性をたっぷりと与えてあげてください。あるいは、「うちの子はルールやマナーを守れないことが多い」という方も同じです。父性的なもので厳しく叱るのではなく、受容する母性性を大切にしていただきたいと思います。

 

 

まず、子どもを無条件に受け入れ希望を満たしてあげる。

厳しさやルールを教えるのは、そのあとです。

 

 

「佐々木正美著『抱きしめよう、わが子のぜんぶ―思春期に向けて、いちばん大切なこと』:大和出版」より

©Masami Sasaki 2006

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