子育て中の親へ

佐々木正美先生インタビューシリーズ16  子育て中の親へ

■子育て中の親へ

 

Q.最後の質問になりましたが、子育て中の親へのアドバイスをお願いします。

 

●子育てはすべての仕事に比して価値ある仕事です

 

 「今言いましたように、子どもを育てるということは、最高に価値のある、誇りのある仕事だということです。なぜかというと、価値のある仕事というのは、今の時代と次の時代の生ける者が、よりよく生きることができるために何を為すかといったことだと思う。それは、空気清浄器を作ることも、コンピューターを考えることもいい、鉄道を考えることも、すべてにそうだと思う。今の生活を潤す。次の世代の生活を潤すということもそうだと思う。私たちが、日夜、いろんな努力をしていることが、今の生活により大きな潤いを、次いで次の世代の人の生活により大きな潤いを、ということでしょう。それぞれの時代を生きる人のことを、いい加減にしておいて、町づくりや、コンピューター作り、電力づくりや芸術づくりはないのです。だから、育児以上に価値の高い、いい仕事はないのです。

 

 ●音楽と言っても人間の声にまさる楽器はない

 

 息子がお世話になっている、T先生という高名なトランペット奏者は、非常に立派な方で家族で尊敬しているのですが、音楽と言ったって、人間の声にまさる楽器はない、だからいちばんすごいのは声楽ですよ、と言われるのです。パバロッティーが好きだと言われます。T先生は、イタリア歌手のこの声にご自身のトランペットの音をどう近づけるか、そういう意味のことも言われた。バイオリンにしろ、ピアノにしろ、人間の声にまさるものはないんだと。だから、声楽家がいちばんすばらしい音楽家だと言われたそうです。人間の体がそのまま楽器ですね。いちばん美しい音が作れるし、そんなことを息子が言っていたのです。


それも一つの真理だと思います。音楽家みんなが賛成するかは別として、人間そのものがいちばん美しいんです。ロダンの彫刻よりも、どの一人の人間もが美しい。価値が高い。子ども一人ひとりを丹念に作る、育てる。写真家は一枚の写真をとるのに大変な努力をする。自動車生産者が、優れた自動車を造るのに夢中になる。環境問題に取り組んでいる人は、大気汚染を美しくしようとし、霞ケ浦の水をきれいにしようとする。それはみんな、なんのためかといったら、今の時代、次の時代の人がどう豊かに生きるかというためにやっているわけでしょう。その〝人〟の問題をいいかげんにしたら、他のどんな仕事や業績も、価値を失いますよね。例えば演劇でいえば、舞台装置をいくら一生懸命よくしたって、役者の技能が悪かったら、良いドラマになんてならない。舞台装置が悪くたって、役者の技能がよければ、見られると思っています。どうして、そっちの方に現代人は生きがいを感じられないのか、不思議でしょうがない。金銭のように、すぐ目に見える物以外には関心がなくなったのでしょうか。学校教育の偏差値も、そう思いませんか」。

 

Q.人間を育てるのが下手で、動物を育てちゃっている。

 

 ●自分の子を養護施設に預け、ベトナムの孤児を引きとれるか?

 

 「あれは、自己愛ですからね。本当に動物をちゃんと育てる人は、人間にも愛があると思う。人間を越えて動物にまで、草花にまでと。ところがしばしば人間は、そういう気持ちの延長線でない動物の飼い方をするのです。自分の親を老人ホームに入れておいて、近所の老人の入浴サービスのボランティアをしている人がいる。人間にはそういう部分があるんです。もっとひどい例もあります。離婚して、自分たちの子どもを養護施設に預けている。そのお母さんの方は、いろんな地域の運動をしている。運動したあげく、ベトナムの孤児を引きとろうとしたらしい。これはひどいですよ。それは自己愛というんです。本当だったら、まず自分の子どもへの責任をもつべきなんです。自分の子どもを養護施設に預けておいて、どうしてベトナムの孤児を引きとるのか。人間というのは、そういうボランティア活動の中に酔うんですね。要するに、自己愛なんですよ。そういう感覚の続きで仕事に出て行っちゃう人がいるわけですよね。

 

 ●母親が長時間働いても子どもは育つ。どっちを向くかが大事

 

例えば、美容師さんは、人を美しくさせるのですが、実は自分の子どもを美しく育てることが大事なんですね。そういう気持ちで働くならば、夜おそくまで働くことがあっても構わないと思うのです。昔の母親はみんな夜なべ仕事をしました。しかし、気持ちは子どもにありましたね。子どもに手をかけることをして、仕事は夜なべをしたんです。だから、どんなに忙しくたって子どもはちゃんと育ったのです。手をたくさんかけなくても、子どもが頼んだことはまっ先にやってくれました。

 

 カギ裂きにしたズボンを縫ってくれるとか、泥んこにしたそれしかない洋服を洗って、一夜のうちにアイロンをかけて、乾かしておくとかして、その他に余った時間でまた夜なべをしたのです。だから、働くことがいけないのではないのです。長時間働いたって、子どもは育つんですが、親がどっちを向いているかが大事なのです。

 

 次の時代の子どもを育てることをしないで、地球環境を守ったって、大気汚染、環境破壊の問題に一生懸命になったって、クジラを守るとかあれこれしたって、人間がおかしくなってしまったらなんにもならない。仮りに人間の方が荒れて野生動物が繁栄するとしたら、それも大きな問題だと思っています。私の〝子育て観〃というのは、そういう意味で、理解していただければいいと思います。現代の親は、特に母親は、子どもを育てることに、もっと誇りや自信と生きがいが、どうして持てないのだろうと思います」。

 

 

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