佐々木正美先生インタビュー11

佐々木正美先生インタビューシリーズ11 食べること眠ること

■食べることと眠ること

Q.欲求不満児への処方箋という形で、先生がよく言われているのが、夜一緒に寝てあげて欲しいとか、手づくり、スキンシップで、食べ物などの要求をかなえて欲しいとか、寝る時、明日の朝何を食べたいか注文を受けて欲しいとか、具体的です。食べることと眠ることは本能です。この点についてお話しください。

 

 ●本能に関わる部分ではしつけない

 

 「人間が必ず毎日することというのは、食べることと眠ることで、最も基本ですね。他にも多少ありますよ。でも顔を洗うこととかお風呂に入ることとかは、毎日とは限らないしね。トイレットに行くことがもう一つあるくらいで、しかし、それは決して積極的に意欲や喜びやくつろぎを感じることでもないですね。だから積極的なことで、人間が毎日必ずやるということは食べることと眠ることだと思うんですね。ですから本能といえば本能ですが、これは強い生理的な欲求なんでしょう。ですからこれをどうするかで、人間の健康は決まると思いますよ。健康というと、食べることと眠ることが体の健康に直結していることは事実ですが、それ以外に精神的な健康にも直結していますね。

 

 人間の最も深く生理的に結びつくことを、躾(しつけ)の材料に使ってはいけないと私は思っているんです。だから食事指導は、私は一切自分の子どもにしなかった。確かに東洋の文化には盛り付けられた物を残さず食べることが美徳であるというのがありますね。そして女性は男性より少なく食べるのが美徳である。だから、茶碗も小さければ箸も短いですね。でもそれからのことは別にしてね、盛り付けられた物を何でも食べるのが美徳であるということについては、私はちょっと異論があるんですね。東洋の文化はいろいろ好きではありますけど。

 

●食べたい物を食べる

 

 というのも、個人差があるわけですね、体質差があるわけです。ですから、自分が食べたい物を食べたいだけ取って食べる。ところが欲をかいて取り過ぎて残す、これはいけないと思います。相手が盛ってくれた物を残すのではなくて、自分が盛り付けた物を残すのはいけない。けど、お代わりはいいからということです。わが家では好きな物を好きなだけ食べるのがいいということを基本的にしています。そして、食事を作る係の者が大変な労力を使うとか、うんと迷惑をするのでなければ、できるだけ自分が食べたい物をお願いして作ってもらう。贅沢(ぜいたく)でなく、家計を圧迫するというのでなければ、この原則は守ってきました。これはね非常に安らぎを感じることです。人生にとって、子どもにとってね、食べることというのは最高の喜びの一つでしょう。大人にとってもそうかもしれません。

 

 だから、最高に楽しい喜びの時間の一つを教育だとか躾に使ったら私はいけないと思っています。自由に、食べたい物は折にふれて親に頼む。その物を基本的に重要視した食事を母親が用意する。こういうことを私の家では原則としています。そして食べたい物を食べたいだけ取って食べて、食べたくない物は一口足りとも食べなくていいというのが私の家の原則です。それで子どもたちの健康は極めていいです。病気はほとんどしないです。これは大事なことだと私は思っています。

 

 子どもの希望はできるだけ叶えられて、食べたい物を食べたいだけ食べればよくて、食べたくない物は一切食べなくていいというのが食卓を非常に円満にするし、楽しくするし、そして自主性を出しますね。自分で取ったものを食べるんですから、それは残さないように。どうかなと思った物は少なめに取っておきなさい、もう一回お代わりで食べればいいんだからと。こういうのが自主性、主体性だと私は思っているんです。

 

 

 ●子どもにとって、昼間の生活が楽しい時、夜眠ることは嬉しくない

 

 眠ることの喜びということですが、昼間の生活がすごく楽しくて、向上心、発展心が旺盛な時期の子どもにとっては、夜眠るということはあまり楽しいことではありませんね。眠ることが、強い希望になったり楽しくなったりしたら人生下り坂ですね。言ってみれば眠ることは一種の死の時間ですよ。ある意味で眠る時間が待ちどおしい 安らぎや楽しみというようになったら、それは昼間の時間にくたびれている証拠であると思います。

 

 子どもにとっての眠る時間は大人が眠る時間とは違うんですね。義務の多い人間の睡眠と、自主的な行動を旺盛にして生き生き楽しんでいる子どもの眠ることとは大いに違います。というのは、自主的なことというのは楽しいことが主体ですから、眠る時間はもったいないくらいです。だから生き生きと輝いている子どもは、朝早く目覚めるわけです。ところが義務や責任でがんじがらめになっている人にとっての睡眠は、ここが休息の場ですから、睡眠が非常に楽しい時間になる。だから眠る時間というのは、食べることと違って意味が違いますよね、大人と子どもでは原則としてはね。

元気な、昼間の時間を楽しい充実した状態で過ごしている子どもにとってはむしろ淋しい、孤独な嫌いな時間。早く寝なさいと言われるのは嫌いですね。ですからその孤独さを癒してあげる意味で幼い子どもにはお休みなさいをちゃんとしてあげる。あるいは不安をやわらげてあげる。孤独を解消してあげるために、側にいてみててあげる。昔は母親が夜なべをしてる姿を見ながらすぐ脇で眠ったものですよね。あれが安らぎでありくつろぎだったんです。

 

 ●親の姿を見ながら、親に側につきそってもらいながら眠るのがよい

 

 自分の個室を早くから与えられ、そこで一人で眠るというのは、子どもにとってむしろ精神衛生は悪いのです。だから大家族のときの方が良かった。親の姿を側に見ながら、あるいは親に側にいてもらいながら眠るのが非常に良かったですね。本当に自立的な生活ができるようになって初めて個室で、あるいは自分の部屋で眠るというのはいいです。子どもにとって夜は淋しい不安の時間ですから、その不安を解消してあげる眠りのつき方が、いちばんいいと私は思いますね。寝入る時に淋しさがない、不安がないことです。眠ってしまったら不安はないですから、親は離れてしまっていいわけですけどね。食べること、そして眠る時間をどう過ごすかは、子どもの人格形成に非常に大事ですね」。

 

 

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