佐々木正美 発達心理学 

 

      佐々木正美 

 

幼児期後半(1) 自発性と創造性を育てるいたずら遊びのすすめ

 

●自律性から自発性へ

子どもの食事自分の欲求や衝動をコントロールして、変更や先送り、あるいは抑制することができるようになると、幼稚園時代の子どもは好奇心が旺盛になって、自分の周囲の環境を積極的に探索し始めます。エリクソンは、この頃の子どもの心の状態を、自分のなかに気づき始めた強さ、安定感、規則性を、外の世界にも見つけようとするのだと言います。自分と外部世界との一種の一体感を見い出すことに、積極的になるのです。自律性から自発性や積極性への発達です。

すなわち、自分で自分の欲望や衝動を統制することができるという自信が、自分の周囲の環境や世界の意味を、探索や探究するための動機になるのです。自分の気持ちをコントロールすることができるようになった程度に応じて、自分のまわりの物事に積極的にはたらきかけることができるようになり、自分の活動を通して、環境と自分の間に発生する結果を観察して、周囲の世界の意味を考え理解していくのです。

ですから、幼児期前半の発達課題の自律性は、自分の身体に対する積極的な探究だとすると、幼児期後半に育てられるべき自発性は、周囲の世界に対する積極的な意味の探索です。

 

●小さな科学者

ピアジェは、この時期の子どもが見せるいたずら盛りの活動について、科学者が未知の分野を探究し、開拓していく行為と同質のものであると言っています。

すなわち、科学者たちは、同じ一定の条件下で同じ実験を繰り返し行って、同じ結果を何度も得た時に、その知見が新たな真実であると結論するのですが、好奇心が旺盛ないたずら盛りの子どもの探索活動の本質的な意味は、全く同じだと言うのです。

すなわち、この時期の知恵がつき盛りの子どもは、おとなの目には、単にいたずらやあやまちとしか思えない行動を、何度も繰り返します。同じ失敗を何回もやります。同じ所で同じ遊びを繰り返して、洋服を泥だらけにしたり、怪我をしたりするようなことを、納得して飽きるまで何度もやり続けるのです。

ですから、この時期の子どもの自発性を育てるということは、将来の創造性や独創力を育むということになるのですが、その方法は、いたずら遊びを十分にやらせてあげること、ということができます。

けれども、この頃の子どもは、疲れを知らずに活動しますし、疲れてもすぐに癒されます。その上、失敗を恐れず、失敗してもそのことをすぐに忘れてしまうほど、次々に意欲的に活動します。

そのために、この時期の子どもを育てるには、一方では、取り返しのつかない怪我をしたり、事故に遭うことのないように気配りをしながら、十分にいたずら遊びの活動ができるように、意を用いることが大切だといえます。

 

● 知識を得る楽しみ

この時期の子どもが、周囲の事物に、積極的なはたらきかけをすることに意欲を示すのは、環境や世界が与えてくれる情報や知識が増えていくのが楽しくてしようがないからです。探究や探索によって知識や体験が蓄積していくことに、意欲的な喜びや感動を感じることができるようになる心理的な準備や基盤は、この頃の遊びやいたずらなどの積極的な探索活動によって、育てられるところが大きいのです。

学ぶこと、試すこと、考えること、想像すること、創り出すこと − こういったことに意欲や情熱を抱くことができる人格の基盤は、このようにして幼児期の後半に豊かに育てられるのです。

子どもはまず、楽しく学ばなければなりません。喜びや感動を予感する好奇心をもって、情報、知識、経験を積み重ねていくことが大切です。そうしなければ、知識を得ることを楽しみにすることができませんから、自ら意欲的・積極的に考えたり学んだりする習慣が身につかないことになります。

ですから、子どもが自分で情報をもたらしてくれる環境への探索活動の楽しみや喜びを、十分に体験したり、そのための感覚がよく発達する以前に、おとなが早期教育や訓練を目的として、子どもが心から楽しむことができないような学習を強制することは、子どもが本当の学習などへの自発性を発達させるためには、逆の結果になってしまって、自主性のない人格をつくってしまうことにもなりかねないのです。

 

● いたずらと躾の間

そのことはまた、親や教育者が、子どもが遊びやいたずらなどの活動を通じて試みている実験、探索、創造としての意味のある行為を、どのように、またどれだけ制限や禁止するかということで、どのような子どもと、その将来をつくることになるのかということにも、深く関連することになります。子どもの遊びやいたずらに対して、禁止や制限が強すぎたり、早期教育と称して、無理やり教えこむことが多すぎますと、子どもは、あれこれ多くのことに興味をもつことやはたらきかけをすることが、悪いことかも知れないと感じたり、何をするにも親や教師や、その他の権威をもっている人の指示や許可を得ないと、安心できないような不安と臆病さ、依頼心、消極性の大きな性格をつくってしまいます。

この時期の子どもの発達課題 −−− 自発性、積極性、創造性は、いたずらのすすめと躾としての子どもの活動の制限の間で、調節されるものだといえます。

(つづく)

(年齢はおおよそです) 文責 高橋健雄