佐々木正美 子育て 心理学 
  佐々木正美
  
 

 ■ 乳児期の発達課題−基本的信頼感

 

   子どもは、首が座らなければ寝返りを打てません。寝返りを打てるようにならなければお座りはできません。お座りができるようになってハイハイが始まります。ハイハイが始まる前に歩くということはありません。

 子どもたちの運動の発達に手順があるように、心理的な発達の手順もあるのです。これが十分できるようにならないと、その先にはなかなか進まないのです。身体は発達していても、心の状態は成熟していないということがあるわけです。ですから、思春期、青年期をむかえても社会的成熟を迎えていないという若者はいっぱいいるわけです。モラトリアムという訳ですね。

 乳児期の心理的な問題、発達課題が解決していなければ、健全な幼児期を迎えられないということがあるわけです。少しずついろんな問題を引きずりながら、あるいは、不十分なままいくことになります。それで、そのものがとても大きくなったときに、精神心理的なものが破綻をきたすわけで、子どもの精神衛生の相談所やクリニックに相談や診療においでになるということになるんです。

 

 人生の最初の時期−乳児期−に、子どもが人格の基盤として身につけなければならない発達上の課題は、周囲の人に対して「信頼」の感情を持つということです。特別な例外を除けば、お母さんを信頼することをとおして、世の中の人々を信頼するという「基本的信頼感」を身につけることです。「基本的な信頼感」をベーシックトラストbasic trustとエリクソンは呼びましたが、これは乳児期に最も豊かにその感性が育つというわけです。

  

■ 乳児期―赤ちゃんが望んだことは満たしてあげる

 

 乳児、誕生から1年くらいのことを言いますけれど、1歳半くらいまではこんな気持ちで育てるのが良いと私は家族によく言ったものです。子どもの要求は全部かなえてあげた方がいいと。現実には、100%かなえるということは、困難です。子どもの要求がわからないこともありますし、何を望んでいるのかわからないこともありますが、けれどもそういう気持ちで育てることがとても大切なのです。

 「抱き癖がつく」

 こんなことを考えないで育てたいものです。抱き癖がつくと一生抱いていなければならないかというと、そんなことはありませんよ。そうすると依頼心が強くなって、甘ったれになって、なかなか親から手が放れなくてしっかりしてくれない、と思うかもしれません。しかし、事実これは逆なのです。抱き癖がつくくらいたくさん抱っこしてあげた方が、さっさと離れていきますね。やってごらんになるとすぐにわかりますね。

 抱き方が足りない方が実は自立しない、離れられないわけです。実際そうなんです。

 それはなぜかといいますと、自分の希望を全部かなえられるということは、基本的には、お母さん。乳児育児をしていらっしゃる保育園では保母さんということになります。

 保母さんの勉強会では、私はいつも申し上げることですが、その保母さんかお母さんをどのくらい大きく信じられるかということはですね、子どもがお母さんや保母さんを窓口にして、極端な言い方をしますと、全人類、その後に出会う街の人や友達や先生など、人をどれくらい信じられるかどうかということを意味しているのです。

ですからお母さんに対する信頼感の大きい子ども、あるいは保母さん保育者にたいする信頼感の強い子どもというのは、出会う人に対する信頼感も大きいのです。そのときの信頼感はどうして育つかというと、自分の要求が可能な限りかなえられるほど良いわけです。

 

■充分な依存体験が周囲(世界)を信頼する力となる

 

 乳児期に不十分なら、幼児期に十分やり直しがきくわけですが、人を十分信じることができるようになるためには、どうすれば人を信じられるようになるのでしょう。

 お母さんに対する信頼の大きさは、お母さん(やそれにかわる養育者)に、どれだけ充分な「依存」ができたかということで決まります。依存ということは、子どもが「自分の望むように」愛されるということです。ですから望むように愛されれば愛されるほど、相手を信頼する感情が大きく育ちます。自分の希望が拒否されればされるほど、かなえられなければかなえられないほど、相手を信頼しません。それは当たり前のことですね。この感性は乳児期にはとても強いのです。

 子どもが望んでいるとおりの愛し方をしてやるのがもっともたやすいのは、乳児期です。何をどんなふうに子どものいいなりにしてやっても、けっして過保護ということにならないからです。乳児期の子どもは自分で自分の欲求を、どんなことも満たすことができないのですから、子どもの欲求に従って、どんなことをしてあげても過保護になる心配はありません。

 それどころか空腹、オムツがぬれる不快さ、退屈、不安、淋しさ、怖れなどさまざまなことで、お母さんやまわりの人の援助を必要としたときに、赤ちゃんの泣き声(呼び声)に敏感に適切に対応してあげることができたら、子どもはそのたびごとに周囲の人への信頼感をふくらませていきます。

 赤ちゃん時代の子どもは、このようにお母さんなどへの依存的体験をくり返しながら、まわりの人や世界を信頼できるようになり、しかも自分自身を信じる気持ち(自信)を深めていくのです。すなわち、子どもにとってお母さんやその他の人々に寄せる信頼の感情は、子ども自身の自信につながるものなのです。

 

 乳児期は誕生から1年くらいのことを言いますけれど、1歳半くらいまではこんな気持ちで育てるのが良いのです。子どもの要求は全部かなえてあげた方がいいと。現実には、100%かなえるということは困難です。子どもの要求がわからないこともありますし、何を望んでいるのかわからないこともありますが、そういう気持ちで育てることがとても大切なのです。

 「抱き癖がつく」。こんなことを考えないで育てたいものです。抱き癖がつくと一生抱いていなければならないかというと、そんなことはありません。そうすると依頼心が強くなり、甘ったれになって、なかなか親から手が放れなくしっかりしてくれない、と思うかもしれません。しかし、事実これは逆なのです。抱き癖がつくくらいたくさん抱っこしてあげた方が、さっさと離れていきます。やってごらんになるとすぐにわかります。

 そればかりか、子どもの欲求を無視した育児のほうが、その程度に応じて、子どもの心に人に対する漠然とした不信感と同時に、自分に対する一種の自己不全感や自信のなさなどを育ててしまうのです。人を信じる感性と自分の価値を実感する感情とを合わせて、「基本的安全感」とも言いますが、この感情は乳児期に最もよく育てられるものなのです。 自分の希望を全部かなえられるということは、基本的には、お母さん、乳児育児をしている保育園では保母さんということになります。その保母さんかお母さんをどのくらい大きく信じられるかということは、子どもがお母さん保母さんを窓口にして、極端な言い方をしますと、全人類、その後に出会う街の人や友達や先生など、人をどれくらい信じられるかどうかということを意味しているのです。 ですからお母さんに対する信頼感の大きい子ども、あるいは保母さん保育者にたいする信頼感の強い子どもというのは、出会う人に対する信頼感も大きいのです。そのときの信頼感はどうして育つかというと、自分の要求が可能な限りかなえられるほど良いわけです。

 編集、文責:高橋健雄

 

  

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