園児の性器いじり 


■園児の性器いじり

 今から1年前、週刊誌で特集された保育園児の性器いじりに関する報告は「衝撃リポート」と名付けられていました。全国各地の保育園で自傷的行動や性器いじりをする子どもが激増している、との報道です。

 保育園児の性器いじりについては、各地の保育者との勉強会でよく語られ、私も承知していました。このためあまり驚くわけではありませんでしたが、あらためて考えてみる必要があると思いました。

 30余年前、カナダの大学に留学し、児童精神医学の臨床訓練を受けていた時のことです。児童の精神分析に関するセミナーで当時、非常に粗末な乳児院や孤児院(現在の児童養護施設)で育てられる子どもが見せる兆候について教えられました。それは同じ動きを何度も繰り返すような「自己刺激行動」で、例えば「ロッキング」といって上体を前後に揺すり続けたり、頭を壁や床に打ち続ける「ヘッドバンキング」という行為です。

 そのセミナーを通じて教授は「そういう子どもたちはしばしば幼児期の早いうちから、執拗な性器いじりをすることがある」と教えてくれたのですが、冒頭の雑誌の内容は、それらをそのまま紹介するものでした。当時の臨床者や研究者は、幼い子どものそういう一連の行動をひとまとめにして、オートエロティズム(自己性愛)と名付けました。

 精神分析の分野を開拓したフロイトは、人間は生まれた直後から性に関する衝動(リビドー)を持っていて、乳幼児は母親の乳房にくちびるで触れたり、全身を愛撫されるようなスキンシップなどの育児行動によって衝動が満たされ、解決していく-としました。

 この乳幼児の性衝動に関するリビドー説に異論のある研究者や臨床者はいます。しかし、古くからヨーロッパで養育機能が乏しいとされた乳児院や孤児院の子どもたちに性器いじりや自己刺激行動が顕著に認められたことは事実なのです。

 

背後には不幸な現実

 

 そして、私たちの国の幼い子どもたちが、家庭で育てられながら保育園に預けられている日常の中で、児童分析の専門家がかつて自己性愛と名付けたような行動を目立って示し始めた-ということは、不幸な現実として受け止められなければなりません。

 少子国とは、やはり子どもを産み育てる力を失いつつある国である-という認識を、私たちはしっかり持たなければならないと思います。保育園で育児支援されているにもかかわらず、かつてヨーロッパで特に劣悪といわれた施設で見せていたのと同じような行動を、家庭と保育園を行き来しているわが国の子どもたちは見せているのです。

 

※「サンデー毎日2002年12月29日号」 本稿は2003年末によるものです。

   写真と本文とは関係がありません

 

無断転用、引用をお断りします。

copyright  佐々木正美

 

前へ       次へ