■自立と相互依存

 

 育児をする時、私たちは子どもがしっかり自立するように育てたいと思います。そしてともすると、何事も人の手を借りないで自分でできるようにしつけてやりたい-と思いがちです。

 もう30年も前のことになりますが、私が発達障害児の福祉施設で働いていたころ、職員は排せつ、食事、衣服の着脱の自立ということを、よく口にしながら療育していました。ここでいわれる自立とは、それらの三つの基本的生活習慣を人の介助なしに自分でできるようになることを意味していました。

 私たちは子どもの自立的な機能や能力を育てようとする時、「自分だけで何かをできるようにすること」と考えがちです。しかし子ども、青年、家族の精神医学や保健の仕事に携わってきた私が近年、特にしみじみ思うのは「子どもに限らず人間は、多くのことを自分1人でするよりも、友人や周囲との親しい関係や協力の中で実行できるようになるのが大切」ということです。

 地域社会が失われて久しい-といわれますが、それは私たちが人との関係で何かをしたり、生きていこうとする能力や習慣も失ったことを意味します。学校でのいじめや不登校はもとより、少年少女たちの万引、売春、青年期以降のひきこもり、摂食障害などの苦しみは、私たちが子どもに対し、友人や他者との親密な関係の中で学び、生きる能力や習慣を与える--といった養育や教育をしてこなかった結果です。

 「人間の自立的な生き方は、他者との相互依存的な関係の中で初めて可能になる」ということを、私たちは、今あらためて思い起こすことが必要です。

 

 

 米国の優れた精神分析家・エリクソンは、人間が勤勉に生きていくための人格基盤が小学校時代に仲間から学び、仲間に教えるという体験を繰り返す中で育てられていくことを、豊富な臨床経験から確認しました。子どもは仲間同士で学び合い、教え合う過程を経なければ、社会的に勤勉な人格を育てられないのです。

 子どもたちに「競争すること」を教えるのは、友だちと共感し合える感情が十分育ってからがよいのです。真のライバルは敵意やしっとといった感情とは異質のものです。子どもの毎日が親しい友人との出会いと別れによって構成されるよう、家族や教育者は心を配られなればならないと思います。

 勤勉な人格や社会的自立の機能は、他者と共感的な関係、すなわち相互依存関係の中で育てられ、発揮されるのです。「友達に頼れますか?友達から頼られていますか?」。この問いかけをいつも忘れずに、子どもを育てて欲しいと思います。

 

 

「友だちを大切に、友だちから大切にされる子に」

人間関係の積み重ねが真の自立をはぐくむ

 

 

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copyright  佐々木正美

 

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