子どもの自立 - 子育て協会

子育て協会-編集室&ゆめこびと

 

 

子育ての最大のテーマは、子どもの「自立」だと言われています。親であれば子どもの自立を願わない人はいないでしょう。ところが最近は、幼児期の早いうちから子どもを自立させようと懸命になっている親が多いような気がします。親に頼らず何でも一人でできる子が自立している、と言えるでしょうか。自立とは何か、そして本当に自立するためには何が大切なのか、ご一緒に考えてみませんか。

 子どもにとっての自立とは

 

自立、というと、あなたはどんなイメージを思い浮かべますか。働く女性の自立、夫の自立度など、最近は自立が時代のキーワードになっていますね。ところが子どもにとっての自立となると真っ向から取り上げられることは少なく、データや資料もほとんどないことが調べてみてわかりました。そんな中で、中・高校生の自己意識を調べたこの図では、自己に対する評価が相対的に高くなく、「あまり気の進まないことでも人から誘われるとやってしまう」子は半数以上。自己を持たず、安易に人に流されやすい子どもの婆が浮かび上がります。自分で立つと書く自立。子どもにとっての自立とは、どういうことなのでしょう。

 

中・高校生の自己意識のグラフ

 

 

 人とつながれない ?

 

 今年中学生になった子をもつお母さんから、こんな話しを聞きました。文化祭、体育祭を見に行っても、無気力な生徒が目立ち、それぞれバラバラで、みんなで一つのものを作り上げるという雰囲気が感じられなかったそうです。合唱祭では、難しいピアノの伴奏曲は弾きこなす子がいるのに、仲間と気持ちを一つに合わせて歌声を作り出せないとのこと。音楽は人とつながるためのものではなく、習うものになっています。スポーツも勉強も個人の能力を伸ばすだけになり、苦手な子を引っ張っていく力やみんなをまとめる力にはならない。子どもたちがそんな風になったのはなぜなのでしょう。

 学歴偏重の現代では、人とつながるための学習、遊び、スポーツやゲームなどが後回しにされています。人とつながる趣味がなく、あっても一人でする読書や音楽鑑賞という若者。周りの人に共感したり仲間に加わったりできない若者。人間関係を学ぶモデルがないため他人と情的なふれあいができず、自分にゆとりや自信のもてない若者が多いように思えます。

 

 大人になりきれない親たち

 

 さて一方、子どもの自立云々の前に親自身はどうでしょう。自立できていない夫や妻のことでお悩みの方はいませんか。二人の切実な証言?をご紹介しましょう。

 

 

●実家ベッタリな妻をもつY男さんの場合(29歳)

 

うちのアパートと妻の実家は歩いて数分の距離。午前中は子どもと公園へ行き、お昼は実家で食べさせてもらうのが妻の日課。ほとんど夕食も済ませてしまい、僕の分はお持ち帰り。子どもを預けるのも頻繁だし、自分と子どものものをしょっちゅう買ってもらう始末。そのうち同居しようと言われそうで、ヒヤヒヤしている。

 

 

●身勝手で想像力の乏しい夫を持つR子さんの場合(33歳)

 

 夫は仕事も忙しく、残業後は電話一つせずに食事や飲みに行き、悪びれずに深夜帰宅。たまに子どもと顔を合わせても、マンガ週刊誌やスポーツ新聞を読んだりテレビに夢中で一緒に遊ぼうとしない(遊び方がわからない?)。休みの日は早朝から釣り、ゴルフ、野球と一人で出かけ家族は置いてきぼり。家族がどういう気持ちなのかをイメージできないみたい……。

 

 

 このように、子どもよりも自分の生活を優先してしまう親、家庭より自分、という自己愛に満ちた親が多いのも事実。一方で「子どものため」と称して親自身が自己実現するかのごとく、塾だ、お稽古だと執拗に子どもを追いかけ回す「パパラッチ、ママラッチ」も少なくありません。大人になりきれない、自立できないのは、今子どもたちより親の方なのかもしれません。

 それでは、本当の意味で自立できる人間を育てるためには、どんな時期にどんなことが大切なのでしょうか。

 

 依存から自立へ

 

 

 人間の成長は、一つ一つステップを踏んでいくので、いきなり自立が果たせるわけではありません。思春期や青年期に、自分をコントクロールする力がなかったり、「何をしたらいいかわからない」といった無力感をもつ人は、乳幼児期に獲得すべき心の発達のプロセスをふめなかったと言えるでしょう。

 精神分析学者のエリクソンは人間の発達を八段階に分け、それぞれの発達課題を明らかにしています。第一段階である乳幼児期は、親との関わりの中で基本的信頼感を獲得する時期。人を信頼する力は、自分で望んだように愛されること、また十分な母子の一体感を経験することによって育つ、とエリクソンは言っています。

「自分の希望がありのままに受け入れられると、自分は価値ある存在という実感をもちます。望んだことを満たされる子は、人を信じ、そして自分を信じられる」と精神科医の佐々木正美先生。

「自立には、この十分な依存体験が不可欠なのです。依存とは、子どもが望むことを望む通りにしてもらうこと。相手に対する信頼感の豊かな期待です。依存体験が不足した子は自立のプロセスを、ふめず、依頼心が強くなる。依存と依頼は全く違うものです」。

 

 夫婦は相互依存

 

 自立というと、何でも一人でできること、というイメージが強いのですが、このように十分な依存があって初めて達成できるものなのですね。そこで、子どもの自立のために母親がありのままのわが子を受け入れるためには、妻を支える夫の存在がポイントになってきます。母親が子どもをゆったりと受け入れる心のゆとりをもつには、父親の理解と協力がなければ無理です。そして、夫婦は一方的に依存するのではなく、お互いが頼り頼られる「相互依存」の関係にあることが求められているでしょう。

 子どもにとって両親は、人との関係性を学べる最も身近なモデル。毎日の生活の中で、子どもは両親が助け合う姿や、人と接する時のやりとり、言葉使い、あいさつの仕方、電話の受け答えなどをじっくり見て、自立の方法を理解し、そのまま身に付けていくのです。そのためには、親が夫婦のコミュニケーションを基本に、育児グループや近隣、PTAの仲間などと、お互いに頼り、頼られる豊かな人間関係をつくり、仲間と心から交わることがとても人切なことでしょう。

人との調和の中にある自立

 

 

 佐々木先生は、「本当に社会的に自立行動のとれる人は、人との調和の中で何かができるということ」と指摘されています。一人で何もかもするのは、「自立ではなく孤立である」とも。様々な人間関係の中でお互いに助け、助けられるつながりがあってこそ、初めて本当の自立ができるのですね。子育ては、子ども、夫婦、地域社会との支え合いがあって可能になるもの。そのためには、子どもが乳幼児期にたっぷりと受容され、愛される心の土台づくりが必要なことを今一度認識し、家族や知人、仲間など、あなたの周りの人との関係性を改めて問い直してみませんか。

 

 

 自立って何ですか?

 

元東京大学教授の山田和夫先生に、子どもの自立についてメッセージを寄せていただきました。

 

 子育てに関しては自立自立というのがかけ声のようです。しかし自立、つまり親離れして友達の中でうまくやっていくには、ひとりで何でもやれる、やるということではなく、他をモデルにしたり他に依存することが大切でしょう。

 突っ込んで言えば他への依存の仕方を教えることが出立へのしっけの大きな部分です。何でもひとりで出来ることが良くて人に頼るのは悪いことだというのは自立ではなく、孤立する人を作りやすいのです。

 青年期の場合でも、社会的自立とは、例えば経済的自立で言うなら、それまで親に依存していたものを親以外の誰か、ふつうは会社に依存することです。これまで授業料、お小遣いと言えばすぐ黙って親がくれていたお金を、就職すれば会社からもらう。しかし今度は黙ってはくれない。仕事ができるだけではだめ。頭の下げ方、頼り方をはじめ社会のルールを覚えなくては長続きしないでしょう。つまり自立できなくなります。

 人に依存するばかりでは甘えすぎですが、相互依存が本当の自立です。そのために子どものうちから、にっこり笑う、あいさつをする、ちょっとした楽しい言葉かけなどを親がモデルとなってしつけるのが大切でしょう

 

※山田先生には、長年大学で学生に接している経験から、「青年−病理からの省察」「キャンパスの症候群」などの著書があります。青年の病いは本人の問題というよりも家族の問題、病いであり、信頼を軸に家族を立て直すことを提示されています。

 

  

子育て協会発行 - コミュニケーション16号 より

 

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