パニックになりやすい子

 

 

 

子育て協会編集室&ゆめこびと

  パニックになりやすい子 〜保育・教育の現場から〜

 子どもたちの“荒れ”が社会問題にもなりました。衝動や感情のコントロールができない子が増えているようです。乳幼児や小学生はどうでしょうか。「ちょっとしたことで自分の思い通りにならないとパニックになりやすい子が増えていて、気になっています」と、先生方。なぜ子どもたちがこのようになってしまったのでしょう。またこれは子どもだけの現象なのでしょうか。今私たち大人に求められていることは何か、ご一緒に考えてみませんか。

 

かみつく子が増えている■かみつく子が増えている!

 ここ何年か、保育園や幼稚園で「かみつく子」が多くなっているという話をよく聞きます。小さな子どもたちがパニックになった時の現象の一つ、と言えるでしょう。北九州市の保母会では、平成3年からかみつきの研究を行っています。特に3才未満児のかみつきが頻繁になったため、保育者にとって切実な問題となったからです。

 平成9年、市内103園に在籍する園児9,534名を対象に、1週間の間行った調査では、472件、300人の事例が出ました。かみつきは0才後半から始まり、3才後半まででほぼ終わりますが、1才半前後の子は、13〜15%がかみついているということがわかりました。

  それでは、このようなかみつき現象の他に、パニックになりやすい子どもたちの様子はどのようなものか、先生方にお聞きしました。

 ■幼稚園では・・・

 ●友達を…たたく、ぶつ

 「特に最近目立つのは、ちょっとしたことですぐ友達に手が出てしまうという子。元気がよすぎて手が出てしまうタイプの子どもは問題ないのですが、ストレスから手をだしている子が中にはいるのです。お稽古事が多くて遊べない、いつも大人の目があって伸び伸びできない、欲求不満を発散させる場のない子なのでしょうか、とにかくパニックになると落ち着かせるまでが大変です。

  自分のことを認めてほしいという意識が強い子、被害者意識の強すぎる子もいますね。言葉では言えずに物を投げたり、ぶったりするケースも。気にいらないことがあると部屋を出ていってしまうとか。原因は些細なことなのにトラブルがおおごとになってしまうのです」。

 ■保育園では

  ●頭でわかっているからこそ混乱

 「ここ数年“待てない子”が増えてきましたね。パニックになりやすい子だけでなく、全体的に気が短い、すぐ怒る、我慢ができないなど、自分の感情を押さえきれない傾向にあるのでは。順番を待てず、保育者をいきなりぶったりして感情を衝動的にぶつけてくることも少なくありません。

 例えばゲームをしていて、ルールはわかっていても自分の思い通りにならないと、イスを投げて暴れる子もいます。頭ではわかっていることも、自分の考えが通らなかったり、気に入らなかったりすると、気持ちを言葉で言える、言えないにかかわらず、我慢ができずパニックになってしまうのです」。

保育所におけるかみのつきの実態(3歳未満児)
かみつきの発生と曜日

 

 ●我慢していい子を演じてしまう

 「一日に数回パニックを起こして物を投げたり、大声で泣きわめいて怒る子が何人かいます。また、暴動型のパニックだけでなく、いじけたりすねたりする形で、自己表現するひきこもり型のパニックもあるように思います。

  そういう子は、我慢していい子にしている子。親の期待に応えようとしていたり、親の気持ちをくみとって、いい子を演じているのです。いつも朝一番早く登園し、お迎えも一番最後で一人で待っている子がいるのですが、“なんで早く迎えに来なかったの”などと言ったことがない。園では落ち込みやすくてすぐいじけたり、なかなか遊びにすんなり入れません。そういう状態になりやすい子はみな、何か我慢しているように見えます」。

■小学校では・・・

●感情のコントロールができない

 「カッとして、怒りの感情をコントロールできないという子が、どの学年にも2〜3名いるようです。自分の思い通りにならないとぶつ、蹴る、物を投げる。収まるまでは何を言っても聞きません。理由を聞いても、やりたいからやったなどと悪びれずに言うので驚いてしまいます。

 昔は遊びやスポーツで気分転換したり発揮できたりしましたが、今のスポーツクラブでは強弱をはっきりさせるばかりで楽しめず、かえってストレスになっているのでは。休日も練習で体を休めたり遊んだりできない、試合でミスをすると責められる、など更に負担になるようです。

 子どもたちを取り巻く社会にストレスが多すぎると思います。子どもはその原因が何かわからずに目の前にいる弱い者へ向けて発散していると感じます」。

  

■子どもの欲求不満はどこから

 

 いろいろな先生方のお話を伺ってみると、パニックといっても、叩いたり蹴ったりという攻撃的なタイプや、いじけたりすねたりといったひきこもりタイプ、また過度に先生に甘えたりまとわりつくタイプなど、その子によって現れるかたちは様々のようです。子どもの心が満たされないという欲求不満が、外(他人)に向かって現れるか、内(自分)に向かって現れるかによって、そのような差となるのでしょうか。

 それにしても、子どもたちの欲求不満はどこからくるのでしょうか。精神科医の佐々木正美先生は「その子が過剰な期待をかけられている場合、そして、子ども自身が望むように愛されていない場合が考えられます」とおっしゃっています。親は、子どものためによかれと思い、一生懸命に子育てをし、十分愛情をかけているつもり。しかし、どこかでその思いがズレてしまっているのでしょうか。

 ある幼稚園の先生は、「子どもに、自分が大切にされている、愛されているという実感がないのでは? 」と指摘しています。親は愛しているつもりでも、その思いが子どもの望むこととかみあわないのかもしれません。

 ■本当に子どもが望むこととは

 子どもの望むように愛する、というのも、なかなかむずかしいように思えます。すべての望みを聞いていたら、子どもがわがままになってしまわないかという不安が、親ならだれにでもありませんか。

 しかし「子どもの望みといっても、とてつもないことを要求するなどないのでは」と、ある保育園の先生。「親は子どもの要求をちょっと取り違えていませんか。何かモノを買ってほしいとか、どこかに連れていってほしいとか、そういうこと以前の、もっと単純で他愛のない、基本的な子どもの要求に耳を傾けて聞いていくことが大切だと思うのですが」。

  本当に子どもが望んでいることとは何か、もう一度よく考え直してみる必要があるようです。

 ■怒りばかりで悲しめない大人たち

  一方、感情のコントロールについて佐々木先生は「感謝の感情が乏しくなって、悲しむべきことを怒ってしまう人が増えましたね。例えば、ひいきのチームが負けると怒って乱闘するサポーターのように」と、おっしゃっています。「子育ての中でも、子どもの失敗やつまずきを一緒に悲しんであげられずに、怒ってしまうのです。“悲喜こもごも”というように、喜びと悲しみは裏と表の感情。そして感謝のないところに喜びは生まれません。日々の小さなことに喜びを感じられないと、悲しむこともできず、怒りの感情ばかりが育ってしまうのです」。

 喜びの感情を日々磨いて、感謝の感性を育てること。それはきっと、子どもたち以前に私たち大人に今、最も求められていることではないでしょうか。

 ■園、学校との信頼関係を

 今回の取材で実感したことの一つは、親への対応の仕方で先生方が悩んでいるという現実です。

 「何か問題が起こった時に、その子の親にどのように事実を伝えていくかがむずかしいところです。伝えると親自身が感情的になり、子どもを怒ったりして、よい方向にいかないことが多いのが悩み」と語る先生方。子どもの問題を一緒に考えたい、その子の気持ちを大切に、十分に受け止めてあげようと思っても、園の中だけでは解決できないのが現状とのことです。

 親としては耳の痛いことですが、園だけで、あるいは親だけで子どもの問題に向き合うことはむずかしいでしょう。両親が一緒に考え合える信頼関係、共通認識をいかにつくるかが求められています。

 パニックに限らず、子どもたちの問題は、大人の生き方が問い返される鏡のようですね。

 

 
 パニックの子にどう向き合うか 〜先生方からのアドバイス〜

 ●「まずは、子どもの気持ちをよく聞いてあげた上で、その気持ちを受け入れる。そして、叩かれたら相手は痛いという事実を伝えて、叩くことはいけないと教えます。でも、担任や園だけでは限度があり、園と親が信頼関係をつくっていくことが何よりも大事なことだと思います」。(保育園)

 ●「幼児期はスキンシップが不足していると、子どもにこまやかな感情が育たないので、言葉が遅いとか、物を投げる、手当り次第なぐるなどの態度になりがち。自分の感情が育たないと、相手の感情もわからず、お互いに関係をつくっていけません」。(幼稚園)

 ●「子どもがパニック状態になったことで、親と園とで連携をとりながら、親子関係や夫婦関係を見直して改善していきました。その結果、子どもも落ち着きを取り戻しパニックも徐々に消えていきました。パニックを子どもからのサインとして冷静に受け止めることでプラスの方向にいったケースもあります」。(保育園)

 ●「学校の様子を親に伝えると、子どもからの言い分だけを聞いている親がパニックになってしまう場合があります。子どもよりまず大人の方が相手の話をよく聞き、共通認識をもって一緒に考えるという姿勢が求められているのではないでしょうか」。(小学校)

1998年 コミュニケーション18号より copyright 子育て協会

 

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