自由ってキレの? 

  最近、子どもたちの荒れや学級崩壊の問題がかなり深刻化しています。幼児でも突然暴力をふるったり、他の子とうまくコミュニケーションがとれない子が増えているようです。そのような中、編集室に読者の方から一通の手紙が届きました。”幼児期の自由保育は学級崩壊の原因になるのでしょうか?”と問いかける内容でした。あなたはこの問題をどう考えますか。

編集室&ゆめこびと(清水 正江 有田留美子 木村依子)

 

 *---- 読者の手紙から ---*

「小学校2年生と4才の幼児をもつ母親です。兄のクラスで、授業中に勝手な行動をする子が数人いて、学級崩壊的な状況になりました。担任の先生といろいろ話し合ったのですが、先生は最終的に”自由で好き勝手なことをやらせていた幼児期の保育に原因があるのではないか”と言われたのです。私は、幼児期はのびのびと遊べる環境が大事ではないかと考え、自由保育を実践している幼稚園に子どもたちを行かせました。でも、先生のひとことでとても不安になりました。ちゃんと椅子に座ったり、集団行動がとれないのは、子どもの好きなようにさせていたからでしょうか。下の子はまだ在園中だけに、とても悩んでいます」。

 

 このような事例をどのように考えたらいいのか、編集室では保育園、幼稚園、小学校の先生方に集まっていただきました。そして、子どもにとっての自由とは、自由と放任の違い、要求を受け入れることと甘やかしの違いなどについて、話し合っていただきました。

座談会出席者プロフィール

A先生 元公立保育園園長  B先生 私立幼稚園園長
C先生 公立小学校女性教諭 D先生 公立小学校男性教諭
司会/ゆめこびと

 

自由保育とは

司会/ではまず自由保育についてお伺いします。A先生の保育園は自由保育を実践されていますよね。

先生/そうですね、自由というのは勝手、気ままと間違ってとらえられやすいのですが、子どもの好き勝手にさせてくれる保育という意味ではありません。子どもが夢中になれる遊びを自己選択できる環境をつくってあげることです。ですから指導者に高度な技術が求められます。
保育園の場合は保育指針に基づいてカリキュラムを組んでいますので、一斉保育の部分はどうしてもありますが。

先生/一般的には子どもがしたいことを自発的にできる活動の場を作るということでしょうね。大人に見守られながら子どもが自由感を持てる保育とでもいいますか・・・。
大人にいちいち言われるのではなくて、一番したいことができる場が必要だと思います。でも自由保育でも最低限のルールはありますから、自由保育だからルールが守れないということにはならないでしょう。

先生/自由ってひとりひとりに合わせて認められることですが、限度があることも子どもには教えます。つまり時間は限られているし、ほかの子との意見の調整も必要になるでしょう。そこを大人が決めてしまうのではなくて、子どもに決めさせる。
歳ぐらいなら話合いができますね、時間はもちろんかかりますが。それよりも小さい年齢の子の場合はいくつか例を出して子どもに選ばせる方法を取ります。やってみて、まずければ納得するまでくり返すのです。

司会/保育者の対応の難しさ、大変さが伝わってきますね。自分勝手、やりたい放題というのは、自由ではなく放任ですね。

先生/本当に自由な時というのは、いきいきと夢中で何かをやっている時や表情が輝いている時です。

司会/お便りのように自由保育のせいで座っていられないとか勝手な行動をすることに関して、学校の先生はいかがお考えですか。

 

 

小学校の現場では

 

 C先生/現在高学年を受け持っていますので正直言って自由保育と学校崩壊の因果関係についてはっきり言えませんが、教師の中に低学年は難しい、特に新一年生は大変、という声は年々多くなっているように感じます。

幼稚園によっては厳しい規制で押さえ込んだり、自由というより放任で何をしても注意しないような所もあるようで、低学年ではその影響や反動がでたりするのかもしれません。でも、あの幼稚園出身だから座っていられないなどと特別感じたことはありませんね。

司会/自由保育だったからけじめがない訳ではないのですね。

先生/ええ、お手紙にのびのびと遊べる環境を大切にしたいとありましたが、人との関係がうまくつくれる子は外遊びの好きな子に多いですね。遊びによって社会性やルールを守れる力が育ちます。

人の邪魔をしたり、コミュニケーションがうまくとれない子はそうした力が育っていないと思います。

先生/学校で自己中心的な行動をする子は「ほめられたい、認められたい」という気持ちをいっぱい持っています。自分が、自分が、なんですね。幼児期に子ども自身が受け入れられていると感じられてきたか、いきいきと子どもらしく過ごせてきたか、ということが大事なのではないでしょうか。

先生/C先生のおっしゃるように「認められたい、かまってほしい」気持ちの現れなのか人の邪魔をする子や、授業と休み時間の区別がつかない子が増えていると感じます。高学年では、反抗したり問題行動を起こすことで注意をひこうとする子もいますし。

 

厳しくすれば自律できるの?

司会/ルールを守れるようになるには、けじめやがまんができなければいけませんよね。子どもか自分を律したり自制心をもつようになるにはどうすればいいでしょうか。ものがあふれている今は、とてもむずかしいことに思えますが。

先生/やはり、子どもの要求が受け入れられて心が安定することが大切でしょう。親や保育者が、子どもの気持ちにしっかりと向き合うことです。ものを与えてしつけるのではなく。気持ちが満たされれば、集団生活の場である園で人間関係のがまんが身に付きます。

先生/暴れたりパニックになる子は、小さい頃から本当の意味で認められていない子が多い気がします。大切なのはどれだけ要求を聞いてもらって育ったか、ですね。待ってもらえた体験のある子は、人を待てるようになります。心配してもらえた子は、人を思いやることができます。ですから、園では子どものいろいろな要求を出せる場づくりをしようとしています。 

司会/ただ単に厳しくすることが、社会性や自律心を育てるわけではないのですね。このところ心の教育のために家庭で厳しいしつけを、と盛んに言われていますが、厳しさが親からの一方的な押しつけであってはいけない、と感じました。ところで、最近の親は“自由”であることをとても望んでいます。先生方はどう思われますか。

先生/自分の子育てを人にあれこれ言われたくない、干渉されたくない、という傾向は強いですね。例えば健診などで何か指摘されると、とても傷ついてしまうとか。

先生/そうですね、子どものことで何か言われると、自分自身が攻撃されたように思えてしまうようです。ですから、学校での子どもの姿を正直にご両親に伝えることが難しい…。

先生/親も子も人間関係を簡単にすまそうとしているのでは?

 教師と親がお互いによい関係をつくるには努力が必要だし、時間もかかると思います。

司会/何かトラブルが起こった時に初めて向き合い、そこから信頼関係をつくるのは至難の技ですよね。日頃から先生といい関係でいるには、どんな方法がありますか。   

 

子育てはコミュニケーション   

先生/身近な例では、連絡帳で担任に手紙を書く時、用件だけではなく、こうしてくれて良かったとか、学級通信や授業の感想などを一言書き添えてくれると、とても励まされます。授業参観や懇談会の後も、残って一声かけてもらえると嬉しいですし。

先生/親の社会性も大事ですね。園ではお母さん自身のためにお友達づくりを勧めています。友達ができることで、子育ての悩みが解決したりストレスがとれたりします。この時期の仲間との出会いが、いずれは地域の活動や仕事につながる可能性もあるでしょうね。

司会/親がひとり頑張ってもいい子育てはできません。いろいろな人との豊かな関係性の中で子育てをしたいものです。他に、先生方からお母さん方へ具体的なアドバイスがあればお願いします。

先生/親同士が仲良くなる工夫をしてほしいです。茶話会や親睦会も、先生を交えて明るい雰囲気で開けたらいいですし。地域懇談会やグループ懇談会があれば積極的に参加して、低学年のうちから横のつながりをつくって下さい。

先生/学級崩壊であれ、キレることであれ、共通するのはコミュニケーションの欠如ではないかと思います。まず、モデルである両親が子育てや生活を通して、お互いの考えや気持ちをきちんと伝え合い、一緒に考え合う姿を子どもに見せるべきではないでしょうか。

先生/子どもが内面的なことをどれだけ大切にされてきたかは、大人と落ち着いて関われるかどうかに現れます。嫌われまいといい子になったり、気持ちを許せるようになるまで暴れたりする子は、伝えたかったことを読み取ってもらえなかった子です。本当の要求を見落とさないように、ご家庭でできる限り応えてあげてください。

司会/とてもいいお話を伺えました。ありがとうございました。

 

 

 

 
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佐々木正美先生に、このテーマに関するコメントをいただきました。

  豊かな時代になった今、自由という言葉の意味が変わってきたようです。どんどん自己中心的になっていて、自由とは”他者と関係なく、他者の目を意識しないで生きる”ことになっている。勝手気まま、とほぼ同義語になっています。心理学者のワロン※は、人間は他者へのイメージが豊かになるほど人格がしっかり形成される、と言っています。きちんと他者を意識するから、セルフコントロール、つまり感情や行動に統制がとれるわけです。ところが今は子どもも親も、他者をイメージできる関係の中で育っていないから、人の痛みがわからない。自己中心的で、自分の思い通りに支配しようとする。気に入らないことはすべて受け入れられなくなっているのです。

 厳しいしつけをしているようで、実は自制心を失ってはいないでしょうか。親の希望通りにしてくれる子どもの姿にしか喜びを見出せなくなってはいないでしょうか。子どもがいきいきと表情を輝かせる姿に幸福を感じられる親であってほしいと、私は願っています。

 Hcnri Wallon(18791962)フランスの心理学者。著書に『児童の性格の起源』など。

 

子育て協会 子育て情報誌「コミュニケーション」22号(1999)より
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