園が好きかな?嫌いかな?

■子どもをありのままに認める

園が好きかな? 嫌いかな?
    佐々木正美先生
聞き手:杉浦正明(子育て協会)

◆親に充分愛されているという実感がよき親離れを誘う

 

杉浦:園が好きだということは、子どものほうにどういう要件が前提として育っていなければならないのでしょうか。

 

佐々木:まず子どもが親離れをした状態で「安心」して振るまうことができなければなりません。子どもの親離れは親の子離れと表裏の関係にありますが、それ以上に子どもの親離れを可能にするものは、子どもが親に充分に愛されているという実感です。子どもは自分の願いどおりの愛情を親から得た後で、親離れの準備を始めるのです。

 

 自分の子どもを愛さない親は、めったにいません。たいていの親は、心から子どもを愛していると自覚しています。しかし、親が子どもに対して行う愛の行為は、必ずしも子どもの望んでいるやりかたで営まれているとはかぎりません。むしろそうでないことが多いのです。

 

杉浦:具体的にはどういうことがありますか。

 

佐々木:例をあげますと、赤ちゃんのとき、親は抱きぐせをつけないようにしようとしがちですが、子どものほうでは抱きぐせを歓迎してほしいと思っているのです。このような行き違いは深夜の授乳や添い寝など、そのほかいろいろな場合にあるでしょうね。

 

 いずれにせよ子どもは、親の愛を子ども自身の尺度で思いどおりに充分にもらっていると実感するにつれて、少しずつ親から離れて幼児なら幼児なりの「自立」した生活を始めようと気持の準備をするようになるのです。ですから、親から離れて園で安心して振るまえる子どもは、親の愛に満足しているといえます。言いかえれば、園の好きな子どもはまず自分の親に満足しているともいえます。

 

杉浦:園の嫌いな子の場合はいかがでしょう。

 

佐々木:いつまでたっても園に馴れないで、園が嫌いな子どもの場合には、しばしば親の愛を子ども自身の尺度で充分にもらっているとは実感できないでいることが少なくありません。子どもには個人差があって、同じように育っていても、子どもの側で感じていることには違いがあるのです。

 

 入園して何週間、あるいは何ヶ月にもなるのに、登園したとき、お母さんから離れられないで泣いている子どもは、単にお母さんが好きで園が嫌いだと言っているのではありません。園の先生や仲間たちよりお母さんのほうが好きだということだけを意味して、泣いているのだと思っては間違いです。

 

 園の仲間の中に入り込むためには、園の先生や仲間たちに、自分が愛され受け入れられるものだという、基本的な安心感とか自信のようなものが必要ですが、この自信はお母さんの愛を子ども自身の望んだやりかたで、充分に体験することを基盤に培われるのです。

 

◆子どもの言うことをよく聞いてやる「やさしいお母さん」に

 

杉浦:自信を育てる育児が大事だと。

 

佐々木:そう。お母さんから、自分の望んだとおりの愛を充分に実感できるやりかたで育てられている子どもは、自分のまわりの人たちを信頼する力をもっています。自分の周囲の人々や世界を信頼する力は、お母さんを信頼することではじめて身につくものです。そして園の先生と仲間の世界に、自信をもって安心して入って行くことができるのです。ですから、いわゆる「口うるさく、こわいお母さん」に育てられている子どものほうが、親離れしにくく、園になかなか親しめないという事実は、幼稚園の先生や保育園の保母さんが日常的によく体験して知っていることです。

 

 誤解を恐れずに強調しますと、子どもの言うことをよく聞いてやる「やさしいお母さん」をもった子どものほうが、親離れがしやすいという傾向はおそらくどこの園の先生や保育者も肌で感じている事実です。

 

 とはいいましても、それでは子どもの要求は子どもの言いなりに何でも聞いて、そのとおりに叶えてあげればよいというものではありません。子どもの言うことや願いをよく聞いて、子どもの望んでいるように愛のある育児をすることと、何でもかんでも子どもの言いなりになることとは違います。

 

◆子ども同士のコミュニケーションの練習(学習)が大切

 

杉浦:集団に適応するには親の愛情をしっかり受けることなのですね。

 

佐々木:親の愛、とくにお母さんの愛を納得のいくまでもらった後で、子どもは親や家族の人以外の人々に心を向けることになりますからね。そこで子どもたちは、親や家族以外の人とのコミュニケーションを練習(学習)しておかなければなりません。幼稚園や保育園がそういうコミュニケーションの練習の場になることは事実ですが、園にスムーズに適応していくためには、入園以前に(あるいは通園しながら)近所の人や子どもたちと交流する練習をしておくのが良策です。3歳か4歳になってから入園する場合には、できれば近所の子どもたちとの遊びはよく経験しておきたいものです。

 

 もっとも、この年齢の子どもたちは、まだ子ども同士だけではよく遊べませんから、親のそばで遊ぶのが普通です。そのためには、お母さん同士が親しいとか、家族ぐるみのつき合いのある親密な家庭が近所に何軒かあることが望ましいということになります。園の好きな子どもは友だち遊びが上手な子どもですし、友だち遊びが上手な子どもは自分の家の周囲に友だちを何人ももっているものです。そしてこの頃の子どもは、まだ自分たちだけでは安心してうまく遊べないのですから、親に連れられて友だちの家を訪問したり、訪ねてきてもらったりして、お母さん同士がお喋りをしている間に、親の目の届くところで友だち遊びを憶え、上手になっていくというのが普通です。

 

 友だちと遊びながら時間を過ごすことに楽しみを感じるようになると、子どもの自主性や自立心は急速に成長します。自分の考えを主張しながら、相手の立場にも同調するというような、社会性とよばれる能力が身についてくるからです。「しっかりしてきた」とか「おとなっぽくなった」と表現される言動がめだってきます。

 

◆友だちの家のカレーライスがおいしくなる

 

杉浦:親の人間関係が問題になりますね。

 

佐々木:そうそう。親同士の親しい交わりです。

  こうした状態になると子どもは、お母さんに連れられて遊びに行った家で、親の用事やお喋りが終ってお母さんが帰宅する時間になっても、家に帰りたくなくなって、自分一人で残って友だちのところで遊べるようになってきます。友だちの家のカレーライスの味がよく思えたり、よその家のお風呂がより楽しく思えたりするのです。このような体験は、さらに子どもの自立的な能力を発達させることになります。園が楽しいという子どもたちは、こうした体験によって培われる自立性のある社会的能力を、年齢相応に身につけているのです。

 

 お母さんが帰ってしまっても、親しい友だちの家にそのまま残って遊べる能力というのは、いったいどういうことを意味しているのでしょうか。やはり親離れであることに違いありませんから、親の愛を自分の気のすむように受け育てられてきたという、それまでの生育史が前提になることは先に述べたとおりですが、その後に何が育っているのかということを考えてみます。

 

 高価な玩具がたくさん買ってもらってあっても、ひとりぼっちで遊ぶよりも、友だちと遊ぶほうが楽しいという発達過程とは、どういうものかを考えてみればよいのです。

 

 友だちと遊びやコミュニケーションを楽しめるということは、友だちの言動のなかに自分にない新鮮な個性や能力といったものを、子どもなりに感じる感受性が育っているということです。そのような好奇心や感受性が育っているということはまた、相手の友だちがこちらに同じように興味や楽しみを感じてくれるような、個性的な創造力の芽が育ち始めているということです。

 

◆休園日を退屈に感じだしたら“しめたもの”

 

杉浦:友だちがいれば楽しいし、いなければさびしい。

 

佐々木:仲間といたいのは本能ですからね。でも、子どもたちは、相互に感動を与え合い感じ合える個別的な「力」が育っていなければ、子ども同士で遊ぶことはできません。そして、このような力が育ってくると、子どもたちはひとり遊びよりも友だち遊びのほうに、より大きな楽しみや喜びを感じられるようになって、気の合った仲間を求めるようになってくるのです。園の好きな子どもは、こういう成長や発達の過程や段階にあるといえますし、日曜日などの休園日をむしろ退屈に感じて困るものです。

 

 このように考えてきますと、園が好きで楽しみに通園する子どもと、4~5歳になってもなかなか園が好きになれず、自分の家にばかりいたがる子どもでは、その生育史のありかたや自立的な能力の育ちの程度、好奇心、共感生、創造力、協調性などの発達の過程や精神保健のようすに、いろいろな程度や水準の違いがあることがわかります。

 

 できることならお母さんも、家庭、園の先生や友だちも、みんな好きな子どもにしたいものです。幼稚園や保育園が好きであるということは、それらがみんな好きだということですし、周囲の人々や世界を信じて、自信や意欲に満ちて、感情が生き生きとしていることを意味しています。

 

◆夜の不安、恐ろしさから守ってくれるお母さん

 

杉浦:理屈ではわかるのですが、親はまずどのようにしたらいいのでしょう。

 

佐々木:そうですね、そういう子どもに育てるための、いくつかの具体的なヒントですが、子ども自身が自分が望んでいるような親の愛のなかで育てられていることを実感するために、お母さんができるだけ子どもの要求する献立を含んだ食事を用意してやることが効果的です。

 

 あるいはまた、夜、就床するとき、そばにお母さんの姿を見ながら入眠するのも好結果につながります。子どもにとって、夜は退屈で淋しく、恐ろしくさえ感じられているのです。そういう不安の夜を、お母さんのそばで安心して過ごせるような気分にひたりながら眠りにつけることは、どんな子どもも願っていることに違いありません。ですから、園嫌いの子どもや、友だちのできにくい子どもが、お母さんに枕元で見守られながら眠りにつくことで、園に比較的容易に馴じめるようになることは決して少ないことではないのです。

 

 それから友だちとのコミュニケーションを体験するために、3歳頃には家族ぐるみで親しくしている家庭の友だちと交流を始める必要があります。お母さん同士が親しくしている家の子ども同士は、最も安心して遊び合える仲間になると思います。ですから、家庭の周囲の地域社会のなかに家族ぐるみで日常的な近所つき合いのできる相手の家庭を、何軒ももっていることが大切です。子どもを育てるための必須の要件だとさえ思います。

 

子育て協会「コミュニケーション」Vol.28号より

 

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