トライアル&ホープ

■辞める自由も

 

  A君は野球で有名な高校に入学しました。小中と野球をやってきたこともあり、花の野球部に入部する予定です。練習の厳しさではつとに有名なため、不安になった母親は密かに中学の監督に相談します。好きなだけでは部活をやっていくのは難しいだろうと思っているのです。「有力選手が多くて、相当厳しいから続かないと思うよ。別の部活にしたら」と言いたい親心。どうしたらいいでしょうと相談を受けました。

 

 習い事など子どもが望んでも続かなくて辞めることはよくあります。その時の対応は親によって様々ですが、最初に子どもが望んだとしても、「あなたが決めたんでしょ。だったら最後までやりなさい!」と辞めることを許さない親もいます。忍耐や我慢が足りない、根性不足になったら、辞めたら次も続かなくなるのではという不安からです。親が厳しく責めると、子どもは罪悪感にとらわれどこに立って、何を肯定していったらいいのか分からなくなります。我慢して無理を続け、降りられない。嫌な感情を抑えつつ自分を偽っていることになりかねません。

 

 私たちは、何かができなかったり続かないと、落伍者、挫折などと思いがちですが、短期間でも経験価値は大きいものです。自立することは、自分で考え、自分で選択をして自分で決めていくことです。望んだことを続けられるのは嬉しいことですが、辞めることも自分で選択できることを尊重したいものです。自分で決められると、自分で責任を取って自分の人生を生きていけるようになるものです。

 

 相談を受けて、私は子どもの望むようにしてあげて下さいとお願いしました。結局半年後にA君が母親に辞める相談をした時には、涙ぼろぼろだったそうです。お母さんは、何も言わずうなずいて「よくやったと思うよ」と慰めたのです。結構な諸経費でしたが、お金に変えられない経験価値を得られたことでしょう。A君のお母さんのように、自分がどうしたいのか、試行錯誤しながら自己決定のプロセスを見守り続けることが思春期のサポートなのだと思います。

 

■親ができること

 

  子どもが部活や習い事など何かを辞めたいと思った時は、むしろ、親の大事な出番かもしれません。最初の出会いの挨拶の仕方を教えても、別れの挨拶の仕方を教えない親が多いものです。場合によってはトラブルがらみのこともあります。仲間や先生、監督にどのように伝え、その後の対応をどうするかなど学ぶことは多いのです。

 

 辞め方を知らない子どもたちは、アルバイトが嫌になったら職場の迷惑などお構いなしに無断欠勤を続けて辞めてしまうなどの困った行動をします。部活も同様で、相手を無視することで絶縁をするのです。「お世話になりました」と指導者や仲間に一言挨拶をすることを教えることで、その後に出会ったときに避けるような対応をすることをしなくなるでしょう。自分を閉ざすのではなく、修め方や挨拶を学ぶよい機会になってもらいたいものです。

 

 辞めると一時的にうつ的になって勉強への意欲がなくなったり、休みがちになることがあります。辞める場合には、子どものプライドや立場、そして周囲の人たちとの関係性に配慮したいものです。

 

  さて、壁に当たった時は、実は成長をするチャンスなのです。親に心配をかけたくないと悩んだり、リタイアは挫折と思って悩む完璧主義の子どももいます。そのような子ほど立ち直りに苦しみます。子どもは親の苦労や失敗経験を知りません。思春期には、お父さんもこんな事で失敗した。お母さんも苦しいこともあったと話をしてみましょう。親の失敗談は、子どもは自分のことを一人前あるいは対等なまなざしで寄り添ってくれていると感じさせてくれるものです。明るく懐かしく、時には笑い話のように。そのような親の姿を見て、完璧でなくても大丈夫、欠点があってもいい、やっていける、という安心感を得ていくことができます。安心感を得た子どもはトライアル&エラーから、トライアル&ホープ、そしてサクセスにつながっていくのです。

 

 

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