リストカット

 一瞬言葉を飲み込んでしまい心穏やかになれない時があります。それはリストカット(リスカ)の傷を見たときです。手首に剃刀などで何本も引かれた切り傷。浅い傷もあれば、赤く腫れた深い傷。打撲傷と違って深く悲しい気持ちになります。


 自分自身で自らを傷つける行為を自傷行為といいますが、リスカはその代表的なものです。特別な子の特異な行動と思うかもしれませんが、必ずしもそうではありません。最近は以前ほど多くはありませんが、まじめなで模範的ないい子などにも時々あることなのです。


 リスカは、一般的に男子よりも思春期の女子に多くみられます。少し出血するくらいの傷が多く、絆創膏やサポーターをしている、夏でもなかなか半袖にしないなどそれとなく分かることもあります。手首以外にも腕や太ももの場合もあり、治りかけのときにさらに切って、傷口が深くなっていることもあります。


 リスカは、行為や身体の傷に注目されやすいのですが、むしろ心の傷が大きいことの象徴でしょう。リスカの痛みで心の傷から目を離すことができる、つまり心に大きな蓋をしているように感じます。

 
 一見明るく振る舞っていても、生きていくことのつらさ、心の奥深くに秘めた孤独感や寂しさ感が背景にあるのです。「○○さん、笑ってるけど目は笑ってないよね」。そう指摘した子がいました。相談できずにいて孤独な対処がリスカなのです。


 夜間、一人になったときにリスカをすることが多く、「血が流れているのを見ると生きているって思う」、そう表現するのです。生きていく事への漠然とした不安があるのでしょう。中には傷を見せたがる子もいます。隠そうとする子もいますが、知られてもパニックになるわけでもありません。私に関心を持って欲しい。そのような揺れるアンビバレントな心の状態なのだろうと感じます。


  騒がずに普通の傷と同様な手当をしますが、リスカは止むに止まれずの行為ですから、「バカなことをするんじゃない」などと責めないこと。そして、無理に止めさせようとしないことです。人には、わかっていて止められないことがあるのです。


●対応は

 

  リスカは死にたいというより、生きる意味が見つからない、人とのつながりをどうしたらいい? 私がここにいていい? などを問いかけているのでしょう。内心はとても不安で自尊心が低い子が多いように感じます。ですから、あなたといること、話ができることが嬉しいし、愛される価値があるという視点を大切にしたいものです。


 私は握手する感覚でそっと飴を渡したり、「おはよう」「またね!」と声掛けをして、肩をポンとタッチしたりします。時には「リスカしたくなったら、引っ張るんだよ」と言って代替としての輪ゴムを手首に巻いてあげます。

 リスカは、長く続く場合もありますが、自分自身の居場所が見つかり、目標を見いだしたりすることで自然に止められることもあります。


  原因は単純ではありません。不安定な家庭環境の場合もあれば、恵まれている家庭の場合もあります。幼い時からの親子関係の歪みが背景にあることは珍しくありません。なぜリスカをするのか言葉で表現できないことも多いので、無理に聞き出そうとしない配慮が必要です。


  自殺願望は少ないといわれますが、手首に当てたカッターを足で踏みつけ、出血多量で重篤になった子もいました。安易に考えずに医療機関等との連携を考えたいものです。


  親が知った場合には、決して頭ごなしに叱らない、そして無視をしないことです。気持ちを受け止める方法を考え、自分自身が大事にされている感覚を持てるような対処が望ましいと思います。

  

 高橋健雄

 

 

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