■性への出会い4 コクる       

 

 休み時間、廊下で「キャー」と歓声が聞こえる。ふと見ると祐子が友人と抱き合って奇声を上げている。「ユッコッ 純愛!」とささやく友人。大輔が目の前を通り過ぎたのだった。

 1年生の祐子は、「オッハー」と、友だちのクラスに出入りするうちに、彼を好きになった。なるほどギターを持ってさっそうと歩く姿はかっこいい。友だち皆で帰る時など、男子グループに手を振って挨拶するだけでもワクワクしている。

 休み時間のたびに、隣のクラスに遊びに行く。大輔を見に行くのか友だちに会いに行くのか、悩ましい心境だ。彼らの様子を遠目で見ているだけでうれしい。近くにいるときは、何を話していいか分からなくドキドキしている。

 「先生どうしたらいい?」「絶対ないしょにしててね。絶対だよ。」

「純愛」と冷やかされながらも、嬌声を上げ抱き合って慰められている。こんな様子はとても愛らしい。

 こうした片想いがしばらく続き、皆に冷やかされ、とうとうコク(告白)ることに。 「先生コクっちゃった。ないしょだよ。」「それで彼は何か声をかけてくれた。」「何も・・・」「だって恥ずかしいし。何話していいか分からないし・・・」「先生失恋したことある?」。彼の無関心さに行き先不安になりつつ、片想いは揺れながら、つづいている。

 やがて、祐子が放課後に話しかけてきた。「先生、下ネタの話しって何?」「どうしたの?」。「何話してるの?」と友だちの会話に入っていったら「下ネタよ」と言われたという。「先生、わかんない?家でお母さんに、下ネタって何と聞いたんだけど、はぐらかされちゃった。」「何かよく分からないよ、先生。お兄ちゃんもお母さんも『そのうち分かるよ』と言うだけ。何、下ネタって。」

 母のよそよそしさと兄のぞんざいな仕草、そんな様子を思う存分話したら、祐子はとても安心したようだった。祐子は、言葉の意味よりも、はぐらかされ誰も教えてくれないこと、むしろそちらに悩み不安だったのだ。

 

 ある時、今度は美紀が訪ねてきた。「先生、村山ってどんなヤツ?」「もう顔も見たくない。教室をのぞくの止めて欲しい。先生何とかしてよ。」

 下校途中に数回話しただけの村山にコクられたらしい。「ずっと前から好きだった。」という。「信じられな〜い。」

 告白は、これからつき合ってくれと言う意味と同じらしい。「それでどうしたの」「シカトしたよ。当然! 休み時間じ〜っと見てんだよ。嫌らしい。先生何とかしてよ。」

 沸き上がる情動に行動のコントロールがきかないのだろう。いきなりの行動は、キレルだけではなくなっている。社交辞令もなく誘い(ナンパ)が告白になっているのだ。失恋するならコクった方がいいとの思いもある。時には振られた後にも側に来て、ストーカーと噂されることもある。つき合いもなくコクる子は、人との交わりが不得手の子に多いようだ。また携帯ネットのサイトでメル友になり、見知らぬ異性と直接の出会いを楽しむ子ども達も増えてきた。いきなりコクることに相通じる物を私は感じている。

 一方、祐子のように、教師の個人的なサポートや関係を求めているように感じられることも多い。先輩や友人が行ってきたリレーションの環が働かなくなりつつあるのだろうか。

 他方では、休み時間に誰とも会話することなく文庫本に没頭する子ども達もいる。弧の世界に埋没する彼らは、異性への関心も少ない。彼らが動き出す時は、突然コクることにならないだろうか。せめぎ合って折り合ってそして豊かな仲に。そんな人との関係を紡ぎ会う機会を持ってもらいたいものだ。

2001/5/12 ©