■性への出会い 3

異性への関心は、時として思わぬ波乱を巻き起こすことがあります。

廊下の片隅でM子が友達数人とひそひそ話。M子の顔がとても暗いのです。「どうした?」「いいから先生あっちに行ってて…」と追い出されました。常日頃、陽気なM子とはとても思えない雰囲気。パワーがあり授業でも快活なM子の変わり方は変です。こんな時は妙に気になります。それとなく探りをいれると、M子はS男に失恋したらしく、かなりショックだったのでしょう。しばらくの間、陽気な笑顔が見られなくなりました。

ところで、特に目立つこともなく穏やかだったA子が、二学期にはいると授業を怠けるようになります。さらに駅前にたむろしての喫煙や深夜の帰宅と、その豹変ぶりは職員室でも話題になりました。「A子はあんな子だと思わなかった。あんな真面目な子だったのに」「高校デビューじゃないの」と。

 登校しても中抜け(2校時とか授業の合間の欠席)をして、非常階段での雑談などと評価は下がるばかり。常々先生方から注意されても生活は変りなく、なかなか真意がわかりません。こんな時は様子見に限ります。

やがてA子は留年するらしいとの風聞が。どうやら、欠席が多くて留年すると言っているらしいのです。これはチャンス。A子とゆっくり面談します。

 「もうだめでしょ。」本人はあきらめモード。しかし、ぎりぎりですがまだ大丈夫。ここで怠学理由を追求します。

「留年でしょ。」

「時間を調べてみるとぎりぎりだね。三学期に一生懸命頑張れば大丈夫だと思うよ。でも今と同じ生活ならあぶないね。」

「留年じゃないの」「まだ駄目と決まった訳じゃないよ。一生懸命できる?応援するよ。」

ぱっと明るくなった顔には、安堵の表情が。「どうして中抜けなんかしてたの。」

「M子なんかと関係ないの。」

「う〜ん、関係ない。」

「そう、M子は失恋したんだよね。」と少し鎌を掛けてみると「えっ、先生なぜ知っているの?」

「M子にもいろいろあったようだからね…」と、さも色々知っているように言うと、大丈夫と思ったのでしょう。

「実は、M子から脅されてたんだ。」と堰を切ったように話し出したのです。

学校へ来るなとか死ねとかかなり雑言を浴びて、その激しい口調から、いつかボコボコにされると感じていたのです。恐怖感と嫌悪感。M子の目から逃げるように行動した結果の怠学。進級への不安との板挟みという悩みの迷宮に入って糸口が見えず、時の積み重ねになったのでした。

A子は、S男と数回遊んだことがあるのです。その後、M子はS男に振られたのでした。M子は失恋の原因がA子にあると思ったのでしょう。誤解がとけた後は、M子の八つ当たりも終了し生活も平穏になりました。

異性関係の些細な軋轢(あつれき)によって、遅刻早退中抜けなどの生活の乱れを引き起こすことは珍しくありません。場合によっては、逆恨み、嫉妬、ねたみなどの感情で暴力事件になるケースもあり油断できません。子どもたちのエネルギーは大きく、行動に目を奪われて振り回されがちです。このため苦しみや背景が見えず手遅れになることもあります。A子は留年瀬戸際になりますが、最初から逸脱行動の原因を探り叱責をすることは反発を招くだけになりかねず、無理に聞き出そうとしても心は開かなかったでしょう。中抜けなど逸脱する行動は、心の迷宮に迷い込んでの行動です。ですから私の苦しみを救ってというサインでもあるのです。

心の扉は、いつも内側に開きます。その時期まで見守り続けることができるか、スモールステップで心の会話をつないでいくことの大切さをこんな時痛感します。

2001/2/17 ©